(14)福と家人の関係 – c

 女の予言は当たった。
 その朝、彼女は居間で化粧をしていた。

 福はダイニング・キッチンにお座りをし、その様子をじっと見つめていた。
 だが、突然走り出し、彼女に体当たりしてきたというのだった。
 ちょうどマスカラを塗っていたところだった。
 福の体当たりで指先がブレ、彼女は自分の顔に線を引いてしまった。

 ついでに福にもマスカラが当たり、その鼻先に、ちょうど×模様が描かれてしまったという。

「そりゃ焦ったわよ、身体に良いわけないし…。どうしようって思ってたら、福、外にいる鳥を見つけて、窓辺に行ってじっとしたの。そのスキに押さえつけて、拭いてあげた」

 そして腹を抱えて笑って言うのだった、「でもあの時の福の顔、おっかしかったぁ!」

 ある夜は、私たちが居間の炬燵に入ってテレビを見ていると、福はダイニングのテーブルの下から、彼女をじっと見続けていた。

 視線を感じた彼女が、ハッと振り向く。福はダイニングキッチンにいる。特に何ということもない。
 彼女の顔がテレビへ戻る。
 だが、福はソロリソロリと、伏せのような低姿勢で、ほふく・・・前進していたのだった。

 彼女がまた、ハッと振り向く。福はピタッ、と動きを止める。

 この無言の「だるまさんがころんだ」は、3、4回繰り返された。
 そして福はもう、彼女の座る炬燵の、すぐ角のところまで接近していた。
 そこは彼女から見えない死角であった。

 福は伏せの恰好をして、ジリジリと臨戦態勢に入っている。
 私は、少し緊張しながら見守っていた。

 彼女は、そこにいるのか、と、そーっと背を伸ばした。
 福は、上から出てきた女の顔に、ハッ!とした。
 だが女は、サッ、と身をかがめた。女にも、何か策があるらしかった。

 そして女の顔が、再び浮かび上がろうとする時だった。
 福は、自分の頭の上にピンと立っている二つの耳を、後頭部の方へ、シュ~ッとたたんだ・・・・のだった。
 敵に、自分の耳を発見されぬよう、たたむ・・・ことで隠したらしい。

 この、耳をたたんだ福の顔は、正面から見ると、まさに〇そのもの、満月のように真ん丸になるのだった。
 真ん丸になった福の顔を見た彼女が、「ツルツル~、ツルツル~!」と言って腹を抱えて笑い出した。

 その一瞬のスキを突き、福がバッ!と彼女へ飛びかかった。
 瞬時、身をかがめた彼女は、いきなり「ワッ!」と言うや否や背を伸ばし、怪鳥のように両腕を大きく広げた。

 びっくりした福は、トトトトと、ダイニングのテーブルの下へ戻って行った。
 だが、そこからまた、じっと彼女を見続けているのだった。
「もうやだあ。わたしを何だと思ってるんだろう」彼女は本気で嘆いた。

 ある時は、パカラッ、パカラッと、馬のような足音がダイニングから聞こえたという。もちろん福だった。
 炬燵にいた彼女が驚いて振り向くと、福はその大きな胴体を横向きにさせながら、つまり彼女から見て「胴体を白い壁のように見せながら」走ってきた。

 その福の背中の毛は逆立ち、上を向いた長い尻尾はボン!と、ぼんぼりのように膨れ上がっていたという…。