(3)翌日から – b

 めでたい福は、可愛かった。何がどう可愛いのか、説明は難しい。
 ただ、真っ直ぐな性格で、まじめで、正直者であるという感じがした。
 素直。そのまま。一心。

 じっと見つめられると、どうしても微笑んでしまう。
 福がいてくれると、それだけで気持ちが柔らんだ。

 だが、福と暮らして、最後まで悩まされたのは、毎晩うしみつどきになると、どうしたわけか部屋の中を徘徊し、ニャアニャア鳴き出す「夜鳴き」だった。

 叱っても、数分おとなしくなるだけで、すぐまた鳴き出した。どうも「人間が寝ている」状況が、気に食わぬらしかった。

 私が起きて、仕方なくダイニングに行き、パソコンの前に座って文を打ち始めると、福は居間のソファーの上で安心したように眠り始める。
 で、私もまた寝床に行き、しばらく寝るが、また福に起こされ…を何回か繰り返すうちに朝になる。

 家人と私は、極度の寝不足に陥っていった。

 昼間の福は、フローリングの床の上に仰向けになり、股をおっぴろげ、両腕を宙に浮かせ、「バンザイ」の恰好で寝ているばかりだった。

 こんな惰眠ばかり貪っているから、夜、寝ないのだ── 私たちはそう断定し、昼間、専業主婦である家人が福を寝かせないようにした。
 すなわち、福が寝る体勢に入ったらオモチャを取り出し、福の気を引いて遊ばせるのだ。

 だが、そのために買ったオモチャのぜんぶを、福は気に入らなかった。
 猫のオモチャには、たいてい鈴が付いている。
 福は、この鈴の音が大嫌いだった。鈴が鳴ると、飛んで逃げて行ってしまった。

 ゼンマイで走る小さなネズミは、一度チョイチョイしたきりで、二度と振り向きもしなかった。
 長い針金の先端に鳥のオモチャが付いているやつには、猫パンチを4、5発くらわせただけで、もう無関心を決め込んだ。

 私たちは、昼をあきらめ、夜、福がよく眠れるよう、猫ベッドを高価なものに変えてみた。
 これは「母猫に抱かれるような寝心地!」というフレコミのもので、5千円もする超高級ベッドだった。

 慣れるように、福の通り道にずっと置いておいた。
 だが福は、「なんだ、こんなもん」とばかりに憎々しげにそれを見やり、わざわざ避けて歩くのだった。