ラヴェルのボレロ

 小学生の頃の、真夏の暑い昼下がり、兄のステレオからラヴェルの「ボレロ」が聞こえてくる間、ぼくは兄の部屋の籐椅子で、うとうと寝入ってしまった。
 学校の、校門のところに、ぼくがいた。

 校庭の向こうに見える校舎の、下駄箱や二階の窓から、生徒たちがこっちを見て、「そこにいちゃ危ない。早くこっちに来い!」と叫んでいた。校舎へ行かないぼくを、もどかしがって、地団駄を踏んでいる生徒の姿も見えた。

 ぼくも、彼らの言う通り、早くそっちへ行きたかった。
 だが、暗く厚い雲に覆われた空から、爆撃機のような飛行機が低空飛行して、校庭の地面スレスレに飛んだりしているのだった。
 このまま校門のところにいても、校舎に向かって駆け出すにしても、危険であることには変わらなかった。
 爆撃機は、校舎は狙わず、取り残されているぼくだけを狙っているようだった。

 ぼくは、決断した。思い切って、校舎へ向かって走り出したのだ。
 だが、その校庭の途中に、落とし穴があった! ぼくはその穴に落ち、下へ向かう、どこまでも白い穴の道を、下へ下へ、どんどん落ちていった。落ちていくそばから、通った穴の道は、生き物のように自動的に黒くふさがれていった。

 落ちながら、ぼくは自分の身体が、退化していくのを見た。
 それはアッというまのことだった、幼児になり、赤ん坊になり、母体の中にいる胎児になってしまったのだ。

 ぼくは真っ白な空間のような、袋のようなものの中にいて、ソラマメみたいな大きな頭をして、手足は異様に短く、横を向いていた。
 まわりは漆黒、真っ暗な世界で、その白い袋のような空間の中にいるぼくは、浮かんでいるようだった。

 そこでぼくは飛び起きた。暑さのせいか、悪夢のせいか、汗びしょだった。
 ステレオからは、まだ「ボレロ」が聞こえていた。