チャポン、チャポンと音が聞こえる。ここは禅寺。ししおどし?
「すっかり友達がいなくなったね」
「うん、彼んとこが居心地よくてね、他の人との関係なんてどうでもよくなっちゃったの」
「ああ、そりゃ仕方ないね。正月にしめ縄! ここに入って来るなよって他人を締め出すもんなぁ。この世で一番好きな人だから一緒に暮らし始めたんだもんね」
「でもこの人がいなくなったら、わたしは一人ぽっちになってしまう」
「ストックを作っといたら? この人が死んだら次はこの人、って」
「セカンドプラン、サードプランを作るの? そんなん、今から浮気してるようなもんじゃない」
「人生設計だよ! きみの一生のためのさ。きみを独り占めしたいなんて男は、たいした男じゃない。きみの幸せを全然考えちゃいない。嫉妬を、これだけ愛してるんだ、ってスリ替えてる馬鹿な男さ」
「おたがいを独占したがるのが恋愛でしょう?」
「その前に独りじゃ淋しいってのがあるだろう。所詮、自分のためなんだよ」
「不安なのよ、わたし。独りぽっちになることが」
「未来への不安か。過去もそうだったろう? 自分なんてそう簡単にゃ変わらんからな。簡単に変わっちゃ、またダメだ。もう、ヒロインになり切っちゃえよ。女王様だ! 男は付属品の電池か電源アダプタ程度に考えるんだ。食っちゃえ食っちゃえ。きみの空虚さを埋めることだ、まず。きみの幸せを考えない男なんて、偽善者なんだから」
「でも今の彼、浮気してもいい、って言ってくれてるのよ」
「ならいいじゃないか。おっきな奴だなぁ!」
「そう言われたらね、わたし他の人好きになれなくなっちゃって」
「ああ、もっと縛られたくなっちゃったんだ」
「自由って、与えられるもんじゃなかったのよね。あんないい人いないと思うし」
「困ったもんだな」
「うん。わたしこうやって困ってる時がいちばん幸せみたいなの」
「わかってるね。きみは自分で選んで困ってるということを」
チャポン、チャポンと音が聞こえる。