むかし、埼玉の、あるひなびた鉱泉旅館に行った。
その旅館への道を歩いていた時、時、前方から、背広姿の男性と、女性が、手をつないで歩いてきた。
ぼくがハッとしたのは、その背広男性の、嬉しそうな、ホントウに嬉しそうな笑顔だった。
彼らが何歳くらいだったかなんて、知らないし、どうでもいい。
ホントウに、彼女と一緒に歩けて、嬉しい。それだけ、というような、まったく、無垢、といった、そうとしか形容のできないような笑顔だった。
今もぼくには忘れられない。喜びに満ちた、あの笑顔…
女性の方も、恥ずかしがってるようにも見えたけど、素敵な笑顔だったような気がする。
で、そういう笑顔に出会うと、ぼくも他愛もなく幸せなような気分になる。
ぬくぬくした気持ちになって、微笑んでしまう。
もう5年くらい前の、「すれ違ったカップル」だったけど、今も、あの男性の笑顔を思い出すと、やはり微笑まざるをえない。
「このひとと、一緒にいられて、幸せ!」
これ、基本のような気がする。