介護の仕事の頃(4)介護職員の人間関係

「介護の仕事は人間関係がキツい、と聞きます。頑張って…」という言葉を友人から頂いた。認知症の方々との関係ではなく、そこで働く従業員どうしの関係である。
 確かにそれは思い知っている。
 実際、「自分は仕事がデキる」と自覚し、周囲からもそのように見られている従業員ほど、妙な自信と自尊心を持ち、自分を絶対的に正しいと考えているフシがある。

 先日、このようなことがあった。シフト制で、遅番の多い私は、3時のおやつを入居者さん方に出す作業をしたことがなかった。
 だが、「仕事がデキる」と自他共に認めているベテランのパート女性は、「そんなことないでしょう。その時間、ぼーっとしているか、喋っているんでしょう」とおっしゃる。その時間、私は入居者さんをお風呂に入れているので、物理的に無理なのだ。

 こんな感じでいいのかな、と思いながらおやつを切り、お茶を入れ、10名の方々に差し上げる。その後、注意を受けた。私の入れたお茶のカップは「昼食用」であって、おやつの時使う物ではない、と。
 そしてどこかに用意されていた、お盆に載ったおやつ用の10個のカップを満面の笑みを讃えて持って来たのだった。
「若くないと、仕事を覚えるのが遅くなるでしょう」ともおっしゃられる。

 また、少々怒りっぽい入居者さんがいらっしゃるのだが、その方をトイレに連れて行くように、との指令を受け、「○○さん、トイレ行きましょうか」と私がその方を誘導する。「行かん!そんなとこ、行かん!」と拒否なさる。
 それを見て、彼女はやはり心から嬉しそうに笑みを浮かべ、怒るひとをなだめすかし、トイレに連れて行く。
「1ヵ月で、早い人は覚えるのに」と、私に向けて、眼を合わせずにおっしゃりながら。

 申し訳ないが、このフロアを担当するのは5日目である。研修と勉強会に参加した日もあり、この方のトイレ誘導は初めてだった。
 その後も、何かと私のアラを探し、「お前は仕事ができないのだ」と見せつけてくるような感じ、実際そのような物言いで何かおっしゃっていた。

 ところで、また別のベテラン男性従業員からは、「入居者さんとのコミュ力があなたはすごいデキている」との評価も受けた。もう1つ、隣りにフロアがあって、そこの担当が私は多かった。そこでの私の態度を、彼は見ていたのだと思う。
 だが、「コミュニケーションもほどほどに。こっちはこっちで事務的な仕事があるんだから」とのことだった。

 くだんのパート女性は、「あなた、みんなから嫌われてないでしょう」と彼女自身が私を嫌っているかのように、にこりともせずに言う。暗に、「こっちが困るのよ。あなたばかりイイ顔されたら」という含みがあるように思われた。
 以前勤めていたホームでも、何か意地の悪い先輩女性従業員がいらっしゃった。たまたま喫煙所で一緒になった施設長にそのことに少し触れると、「それはね、あなたに嫉妬しているんですよ」とのことだった。

 まあ、従業員どうしの心理的なねばりつきは、どうでもいいと思いたい。私は、人間関係をするために仕事をしているのではない。
 そのようなことに、これでも悩み、休日もそのことで頭が一杯になるけれど、私の生きる目的は、あくまでも自分自身を律することなのだ。そのようなことに一喜一憂しない自分に、自分を持って行くことなのだ。

 とはいっても、悩む。悩んだところで、どうしようもないのだが、ああ、自分はそのような人たちによって悩んでいる。
 悩ませているのは、彼らの存在、言葉、態度、そこから受ける私の感受作用によって私の心に彼らが巣食っているのだ、と自分を観るようにしている。
 この私の心を、私が冷静になって鎮めることが、自分にするべき対処法なのだ、と。他者は、私ではない。自分だけが、自分の心をどうにかできる、と。