モーツァルトの指揮者たち

 モーツァルトはキリスト教よりフリーメイソン寄りだったという。彼ほどの楽聖がなぜ貧乏だったのか? セリーヌ的に見たら、あの秘密結社にお金をむしり取られていたのかもしれない。が、そんなことはどうでもよい! モーツァルトがどんな団体と関係をもっていようが、その音楽は露ほども霞むものでない。
 … その演奏に指揮棒を振るった指揮者のことを書きたい。そんな沢山知っているわけでもないが。
 この頃、面白いと特に感じるのはニコラス・アルノンクールさん。二十歳の頃、交響曲の25番をFMからエアチェックして、なんじゃこの演奏は、と驚いたのが初対面。
「これ、だいぶ省略してね?」一緒に聴いていた友達が、変な演奏!とでもいいたげに苦笑して言った。自分もそんな印象だった。しかししかし、繰り返し聴くうちに、魅力的な、忘れがたい杭みたいに心に残るようになった… この25番、もうテープはないしYouTubeでも見あたらない。残念だ…
 作家の「文体」のように、あっ、これはアルノンクールだ!とすぐにわかる演奏。この人のモーツァルトを聴くと、しばらくこの人のモーツァルトばかり聴きたくなる。

 あと家にあるCDで、なんじゃこれはとなったのは、チェロで有名なカザルスさんの指揮する後期六大交響曲。これは笑ってしまった。40番もジュピターも、軍隊が行進するような曲になっていた!
 とにかく情熱的な人だったのか、その指揮に楽団がついて行けないというか、指揮してる本人も自分の情熱に振り回されているというか、前進前進、進むのみ、突き進むのみ!といったモーツァルトだった… あまり聴いていない。
 堂々として、でも繊細で、楽器が息をしているように感じるのが、やっぱりブルーノ・ワルター。ワルターさんのコロンビア交響楽団は、ウィーンやベルリンフィルより好きかもしれない。ひねくれているわけでなく、味覚の問題だ。これが美味しいという…
 楽団員が気持ちよく演奏することを心掛けたらしいワルター。大きく、寛大で、包み込まれるようなモーツァルト、でも荘厳で、堂々として。やっぱり一番好きな指揮者だ。この人の六大交響曲のCDを四六時中かけていて、家人にげんなりさせてしまった時期もある。
 トン・コープマンさんもモーツァルトが好きだったようだが、どうも、申し訳ないがうるさく感じる。モーツァルト愛はとても感じるのだけど。
 カラヤン、ベームは言わずもがな。フルトヴェングラーさんはドン・ジョヴァンニに尽きると思う。
 この頃はミサ曲に傾倒しているから、いろんな指揮者によるモーツァルトを新しく知ることも多い。でもやっぱりワルター、そしてクセになる(クセがある?)アルノンクールさんが面白い。
「のれんに風」のような人間になることを願う自分としては、あまりに個性的な指揮者は理想人間像と反してしまうのだけど。好み、嗜好は仕方ないか。