無自覚の神様

 ええ、幸せでしたよ、楽しかった!
 モジだけの関係… あなたがどこにいるのか知る由もなく!
 どんな容姿をしているかも知らず!
 あなたは私に入って来ました、「ただいま!」
 私は返しました、「おかえり~!」
 あなたも私も、スマホだけのやりとりで、どんなに楽しかったでしょう!
 あなたが誰だろうが、どうでもよかったんですよ。

 私がつきあったのは、私の退屈な時間を埋める人でね。あなたは見込みがありそうだった、何より優しいです、これ肝心! やさしいこと、この曖昧さ、大好きです。
 しかしあなたはしぶとかった。本能的に、自分を守ることを知っていました。自分に不利、不都合、面倒臭い、見たくない、受け入れられない、受け入れたくないものは、自動ドアのように閉めました。開/閉ボタンを押したことも無自覚、記憶にございません。嘘でなく、ほんとうに覚えていない── 無自覚の神様! 邪気が微塵もない。綺麗さっぱり、もののみごとに、あなたの記憶は自分の都合のいいように使われます。恐るべき人でした。

 純粋無垢。無邪気。しかし、いい大人が、いいトシこいて何してるんですか。恋だの愛だの、気持ち悪い。青臭い、通り越し、阿呆臭い、も通り越し、ただただ呆れます。吐き気、吐き気!
 あなたはね、自分が好きだっただけなんですよ。素晴らしい、無辜なる自己愛!
 まわりは、自己満足のために使われる、あなたのオナペットみたいなものでした。観客がいた方が、あなたは興奮します。形だけの「数」、フォロワー、いいねの数字だけで。いいなぁ! 内訳は知らず、知ろうともせず(あの自動装置で)、あなたは今日もエクスタシー! いや、完全体です、自己満足の! 幸せは、自分でつくるものですからね、あなたはそれを完璧に体現されてるわけです、無自覚こそが至上の幸福! 神様仏様の領域ですよ、イッちゃってますね、完膚なまでに、あっちの世界へ。

 ああ、あなたにはそれがこっちの世界か。「誰にでもある」承認願望を、自分もそうしているだけだと仰る。そう、利用したもん勝ちですね。利用された身を考えず、かえりみず。
 自分のために、|純粋《・・》に、自分のために。究極の生命体です、あなたはまさに人類の鏡だ。ヒトって、そこまでイケるものなんですね。無自覚無思考、敵なしだ、無敵一人艦隊だ…
 いや羨ましい! この羨望の眼差しも、あなたにとっちゃ快楽の財源だ。神の国は近づいた! どころか、あなたが既に神の国だ、一個の。

 私は人間に戻ります。私であったところへ帰ります。あなたは上へ。私は下へ。海も山も、地上の話。掛け替えのない御自分に酔い、ナルシスの極みの楽園で遊んで下さい。私はまわりを巻き添えにせず、ひとりの世界へ帰ります。無自覚の神様、どうぞそのまま、happyであり続けて下さい。神様は、幸せでなくちゃ、困ります。気づいちゃダメですよ、そのままそのまま。