新潮文庫の裏表紙、そこにある簡略なあらすじ通り、「戦争時代」に遅れた青年の心情をあらわした物語であるらしい。
まだ半分も読んでいないが(けっこう分厚い)、「戦争は、終わってしまった」のだ。国のため、天皇陛下のため、その御心のために、死ねば、英雄になれた、という幻想のもとに生きる、少年時代の頃の話を、今読んでいる。
もちろん戦争は終わっていない。「企業戦士」という言葉もあった。ほんとうに兵器の飛び交う戦争後も、このくにの人たちは、「会社のために」尽くしていた時代もあったのだ。
現代、「自分のために」戦っている人々が、多いような。
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天皇陛下のために、英雄として死にたかった。
だが、戦争は終わり、望みは未完に終わった。
「何かのために」生命を賭したいとする自己とは何か。
それを失った者が、どこに生命の矢の的を見つけることができるのか。
まだ半分過ぎたところ。
しかし、たぶん大江は、ここに、この作品の主題を置いているのだろう。
ヒトトイウ・セイメイ・ジブンノ・タメダケニハ・イキラレナイノダロウカ?
書いている大江が、椎名麟三を意識に置いて、書いているような気がするのは、ぼくの頭に、椎名麟三がいるからだろう。