整体の考え方

 ── 「自然治癒力」とは、自分で自分を治す力であること。
 傷ついた皮膚がふさがるのも、風邪が自然に治るのも、疲れた身体が寝た後でスッキリするのも、全てこの作用だという。
 体内にある細胞の一つ一つが持っている「知性」が、自分で自分の身体を治していくという。

「整体」と聞くと、身体を「外からの力」で矯正するようなイメージを持つかもしれないが、彼のおこなっている整体はそうではない。
 常に、個人の身体の中にある流れや動きを感じて、それらが導く方向へ身体を調整していくという。

「施術者主導で調整する」というよりも、「個人の身体の中にある力が、施術者を利用して自身を調整している」というイメージだ。
 彼は、その「施術者を動かす力」も「自然治癒力」の一つだと考えている。

 最初は椅子に座り、その座った個人の、主に背中の状態を彼はみていく。その後はベッドに個人は移り、全身の流れや動き、身体にかかっている力の癖などを詳しくみていく。

 最初のこの時間は、「身体の声を聴く」時間だそうだ。
 やがてその日に調整が必要な部位が感じられたら、施術に入っていく。
 施術で使う手技は優しい刺激のものがほとんどで、寝てしまう人も沢山いるという。

 時には関節を大きく動かしたり、ストレッチをしたり、筋肉や靭帯を強く押す場合もあるが、どの場合でも身体に抵抗のない刺激でおこなうので、不快な痛みには感じられない、と彼はいう。

 個人の全身の動きやリズムが均質になれば、その日の施術の終わるタイミング。
 そういう時は、身体全体に呼吸が淀みなく通っていくような、頭から手足から胴体から全てに滞りなく水が流れていくような感覚を覚える。
 赤ちゃんのように、全身が一体となって呼吸をしているように感じられることもある。その様子は、凪いだ海の穏やかさにも似ている。

 病気や不調は、「敵」ではない。
 身体の健康状態は、心(思考と感情)の健康状態を教えてくれる大切なバロメーターである。
 自分の心を大切にする時間をつくると、身体は自然に回復の方向へ向かっていく。
 この仕事は、そこへ向かうためのほんの僅かなお手伝いだと、彼は考えている。

 ── といったところだ。
 非常に共感するところ、多々あって、困ってしまう。彼は、施術後、白湯さゆを出してくれるのだが、これがやたら美味い。
 ふつうの水道水のお湯だというのに、それが美味しく感じられるというのは、ありがたいことだと思う。
 妙な刺激物の入った飲食など、まったく要らない。

 それまで世話になっていた近所の整体が沖縄へ引っ越してしまったので、この新聞を出している整体院まで50分くらい歩いて行く。
 この「歩く」ことが、いちばん身体に良いのかもしれない。

 だが、歩くだけでは「身体様」が自身を支えきれないようになった時、この不思議な整体の力が必要になるようだ。
 全く、身体は未知なる宝庫である。