どろどろとした、沼地のような場所だった。
世界の全体は、薄い、霧掛かったようなセピア色で。
その場所は、枯れ木が円形に、こんもりと、その沼地の中央に積まれていた。
大人が、20人位が立てるほどの、枯れ木が積まれてできた、離れ小島のような陸だった。
そこに、ぼくを含む3人の人間が立っていた。
枯れ木は、沼の汚濁した泥水を被ったように、全体がどろどろしている。
生きている、生命をもつ世界全体の、一部の生命として、その陸はできあがっているようだった。
その枯れ木でできた陸も、生きていた。人間の、生命を喰って、生きていた。
呼吸する微動、生きている、生身の鼓動のようなもの、なまめかしい温かさが、ぼくの足元から立ちのぼってくる。
人間が、その枯れ木たちと同化すること── つまり枯れ木たちの食糧になることで、その沼地全体が、まるで栄養を得て活性化するようなのだった。
その陸に、取り残されていたのが、知らない女性二人と僕の、三人だけだった。僕たちは「取り残された」ことを知っていた。
沼の向こうに、ドアが見える。かつて、この沼地とドアの向こう側の世界、行き来が自由だった。
だが、もう人間たちは、沼地にいることに耐えられなくなった。
そしてバシャバシャと、汚濁の沼をヌーの群れのように渡り、みんなドアの向こうへ行ってしまったのだ。
渡り切ると彼らは、沼の生命が、向こう側の世界へ行かないように、ドアを閉めて鍵をかけた。
まだ、我々3人がいるにもかかわらず。
「なんで閉めちゃうのよ!」私の横にいた女性が、恐怖のために狂おしく叫んだ。
僕は、何か「試されている」気がした。
この沼の世界、あのドアの向こうの世界、さらに、こっちの世界とあっちの世界を包むように、もっと大きな、宇宙のような世界全体から、試されている気がした。
沼の貴重な栄養素である生命、それを持つ生物の一種である人間の数が激減したことに、沼は怒っていた。
妖気のような怒りが、この世界全体から感じられた。
我々の立つ枯れ木の陸の端から、一体の、人間の形をした、枯れ木で構成された生き物が、怨嗟の声をあげながら憎悪に燃えてこっちを睨みつけている。
口が、暗黒のように開かれていた。
我々の場所から少し離れた、枯れ果てた森からは、グリズリーの形をした、やはりどろどろの枯れ木でできた生命体が二本足で立ち、顔をこっちに向けてガオォガオォと咆哮をこだまさせている。
陸の上のひとりの女性が気を失ってしまうと、陸を構成するどろどろの枯れ木たちが、たちまち彼女の身体をくるみ込んだ。
彼女は、枯れ木と同化していくだろう。徐々に溶けていくだろう。
もうひとりの女性は、どこへ行ったのだろう?
みんな、とりこまれていく。
この沼に、この枯れ木に、この世界全体に、僕らはとりこまれていく…
そこで目が覚めた。
夢の中の僕は、全く怖くなかった。何か絶対的で、永久普遍の、この世界の創造主のような存在に、「試されている」とばかり感じていたからだ。
だが、その夢を見ていた現実の僕は、悪い夢でも見たような気が、しないでもなかった。