ここ数日、知らない女の人が、よく夢に出てくる。
起きてる間に見る夢ではなく、寝てる間に見る夢である。
そのひととぼくは、非常に健全なおつきあいをしている。
あまり、おたがい、会ったことがない。というか、ほとんど初対面である。
しかし、おたがいに何かを親密に了解し合い、まるでおたがいがおたがいのことを全て分かり合っているかのようなのだ。
で、手をつないで、歩いている。顔は、よく見えない。
夜だか朝だか、よく分からない、薄暗い幕が綿密に全体を覆っているような街の中を、そのひととぼくは緊密な精神性のつながりをもって、いとも自然に手をつなぎ、歩いているのだ。
舗装されたアスファルトの歩道、そのひとは左、ぼくは右にいる後ろ姿。
ぼくの右手を、車が往来している。
そのひととぼくは、どこに行くのか分からない。でも、おたがいにまったく不安がない。
まるで、どこに行くのか、もう決定されているかのようだ。ぼくらの意思ではなく、何かべつのものの意思によって。
そして、どうなるのか分からない。ぼくが睡眠から目覚めてしまうから。
分かるのは、なんだか自分がひとりっきりだなぁということ、何か幻想を抱いていたが、それはあくまでも幻想に過ぎなかったのだというような、虚無に似た穴ぼこが自分の中だか外だかにあることを感じていることである。
嬉しいのか悲しいのか、淋しいのか楽しいのかも、分からない。
いや、ぼくは、嬉しかったか。ホッとしていたか。
だが、何か、はかなく感じられていたのも確かだった。ともかく自然だったのだ。
まるで波打つ感情の起伏は初めから無く、宿命的な、もうそうなっているのだから仕方ない、とでもいうふうな気持ちを、そのひととぼくは根底的に共有していた。
そんなひとりとひとりが、薄暗い街の中を、まったく自然そのものであるかのように手をつないで歩いていたのだ。
寝てる間に見た夢である。だが、かなり現実的な感覚も、寝起きの身体に強い余韻として残っているのだが。