JR東海の「春のウォーキング」というようなパンフレットをきっかけに、家人が行きたいと言い、ぼくも行きたかったので行ってみたことがある。
参加費は無料。住所や名前を書き込むこともなかった。
出発地点の駅から吐き出された、デイ・バッグを背負い帽子を被った中高年のひとたちが、道の電柱などに貼られた矢印をたよりにシャンシャン歩いていく。
ぼくらも、その一組だった。中には、かなり高齢そうなおばあちゃんの姿もあった。
ゴールまで2時間半のコースだった。10㎞ 弱というところである。
家人が付けていた万歩計は、17.ooo近くを表示していた。
途中の、温泉宿の立ち並ぶ休憩所のような所は、三河湾を一望できて、なかなか景色もよかった。
だが、そこのベンチに座っていた、ご婦人の声が聞こえてきたのであった。
「…、ああ、しゃべって、元気になった。ひとりで歩いていると、淋しくて。じゃあ」
というような声だった。
── ひとと、しゃべると元気になる。ひとりでは、淋しい…
あのウォーキングに参加して、いちばん心身に響き残ったのは、景色でも時間でも歩数でもなく、知らないご婦人の、この声だった。