18歳位の時のこと。忘れられないこと。
私の部屋に、友達、ふたり。
ひとりは、女の子で、ひとりは男の子。
私たちは、同い年だった。
たぶん、しょうもない話をしていたと思う。
何というか、心のほうに、何も入ってこない、ただ笑うだけの、しかもそんなに笑いたくもない話というか…
責めるわけじゃないけれど、彼は、とてもフツウのことしか言わなかった。
で、私と、女の子は、いささかげんなりしていたと思う。
少なくとも、彼女が物足りなさそうな気配があった。
そう私が感じたということは、私も物足りなかったのだと思う。
彼が、喋るのをやめた時、彼女はふいに左手首を私たちに、「わたし、自殺しようとしたことがあるの」と言いながら、見せた。
そこには、みみずがのたくったような傷跡。
咄嗟のことに、私と男の友達は、驚いた。つまり、言葉を失ったのだ。
冬だったので、長袖のセーターか何かを彼女は着ていた。手首を見せると、彼女は、袖をなおした。
で、もう帰るから、というようなことを言って、彼女は帰った。
残された私と友達は、しばらく黙っていたが、突然彼が、「なんであんなもん見せるんだ」と怒りだした。
「え、見せてくれたんだよ、一生懸命、見せてくれたんだよ。ありがたかったけどな、俺…」私が言った。
「どうしろっていうんだよ。あんなもん見せて、俺にどうしろっていうんだよ。頭おかしいんじゃないか。
そりゃ俺だって死にたいって思う時はあるよ。でも、そういうのは見せちゃいけない。
そう思っても、電柱なんかにツバ吐いて、よろよろ歩いて行きたい。そういうのが好きだ。全く、何考えてんだ」
は、ほとんど一気にまくしたてた。
「いや、べつに、どうしてほしくもなかったと思うよ。ただ、見せてくれたんだよ。べつに、俺らに何をしてほしいわけじゃなくて、ただ、そうしたかったんだよ。見せてくれたんだよ。嬉しかったけどな、俺」
憤慨する彼と、どうしてか彼をなだめたいとする私は、最後まで平行線で、交わる接点が持てなかった。