眼(3)

 感情をコントロールすること。
 これに長けた人は、人生の成功者に見える。
 自身の心に占領されるのでなく、自身がその領主となること。

 とてもじゃないが、大変なことだ。
 そのような時があったとしても、また心は動く。
 真っ暗闇になり、また明るみを見つけ、を繰り返す。

 一定におさまることがない。
 おさめることもできない。
 ただ、見つめることができるだけ。
 外的な何かをきっかけに、影響を受けて飛び跳ねる、この自由気ままなものを。

 よく、見てみよう。
 見つめられると、かれは弱い。
 恥ずかしさにかこつけて、すぐ逃げようとする。
 追いかけるまでもない。かれは、ここにいるのだから。

 今度は、何が原因でそうなっているのかね。
 途方もないことを訊くなよ?
 途方もなく思えるなら、途方があるだろう。そこは、どこだったのかね。

 そう、ここでいつもきみは止まってきた。
 その先へ、だからその元へ、行こうとしなかった。
 ともかくその先へ行こうとして、始めたのではなかったかね。
 宙ぶらりんの状態を、脱するために、始めたのではなかったかね。

 抽象的なことを、抽象のままではいけないと、抽象を突き詰める試みではなかったのかね。
 責めないでくれよ?
 とことん甘えたやつだ。

 よろしい。甘えさせてやる。わたし以外に、おまえが甘える相手も、いなさそうだからな。
 打ち明けられるかね? いや、きみは言語をもっているのかね。
 わたしがあてがってやらないと、きみは啞同然だ。

 とすると、わたしがきみに打ち明ける形になるね。本末転倒だ。
 わたしは聞きたいのに。
 おっと、本末を転倒させたのは、このわたしか。

 わたしが、おまえを制しなければならないのだった。
 そう決めたのは、わたしか? おまえか?
 わたしはおまえだったのか? おまえはわたしだったのか?
 ならば、なぜにこんな自問自答ができるのだ。おかしいではないか。

 やはり、おまえはいる。おまえを、こまかく映したい。描写したい。
 一定せず、不定形にころころ戯れているおまえ。
 おまえは、わたしが形どろうとするから、いびつになるのか?
 ああ、おまえをおまえのまま描けたら、どんなに気持ちがいいだろう!