生きるってサ

「生きるって、つらいことだねぇ」

「まったくだ。明治時代に入る前の頃は、衛生面や疫病もあって、30~40歳が平均寿命だったらしい。ちと早すぎる気もするが」

「ぼくは今年56だ。羨ましい気もするよ。早く死んだら未練も残るだろうが、長く生きたら生きたでつらいものだ。特にやるべきこともなくなるし、これをやりたいという強い気持ちも希薄になって、エネルギーがなくなっていく。
 過去と比べるからこうなるんだが、やわらかい拷問を地道に受けているようだよ」

「まぁ、生きてるからこそ、つらいんだ。死んだら、つらさも味わえない。ありがたいことだと思うがいいよ」

「ありがたいなんて思えんだろう。現状を受け入れられないことが、人の苦しみの根源なんだ。ぼくも人間なんだ」

「じゃあ、あきらめよう。人生はつらいものなんだ、と。つらくない状態を求めるから、反動で大きくなるんだよ、つらさが」

「苦とも楽とも思わず、淡々とすべてを受け容れられたらいいんだろうな、きっと」

「お、わかってるじゃん。じゃあ、あとは実行あるのみだ」

「どう実行するんだ? 心の問題だ、行動するものじゃないだろ」

「生きることだよ、生きること。生きてりゃ、動くことになる」