復興(2)

 彼らは言葉を持つのをやめた。空虚な言葉ばかりを聞き過ぎた! 政治家から、メディアから… 虚しいばかりだ! もう言葉などアテにしない… 信じられるのは感じることだけだ… 電波なんか要らねえんだ… 感受性ってもんがある… 発信する、受信する… 体内アンテナ、体内衛星ってもんがある… 交信ケーブルは各自の全身に埋まっている…
「なんなら、お前が今どうしているか、どんなふうに生きているのか… 分かるよ、1000マイル離れていても!」
 彼らは言う、言葉じゃなくて… わたしにも分かるんだ、彼らが何を言いたいか…
「文明の利器? 便利なものだったねえ! おかげで、ずいぶん堕落したもんだ! あれで精神がイカレちまった! ナイーヴなものだったよ、心ってやつぁ… 孫女装子そんじょそこらの精密機械と違う… とんでもなく繊細で微細で絶妙な、超高速爆速マシン… ビル・ゲイツもアインシュタインもエジソンも、あんな人間にゃ発明できない、けっして発明できない、とんでもねぇ性能、スペックがあったんだ、人っ子ひとりひとりの中にゃあよお!」

「いつのまにか忘れちまったんだ… あっけないもんさね! あっちゅうまだった! 忘れることの他愛なさといったら! 両立できなかったんだ… 取り残されちまって、何もなかったように… 忘却の彼方ってやつさ! そりゃ忘れることも大切だろうが… 忘れちゃならねぇもんさえ忘れちまったんだよ! 科学! 発展! 進歩! 一気に逝っちまった… 退歩、後退、ミジンコみたいに小っちゃくなった… 人っ子ひとりひとりに搭載された高性能機器、無限GB、可能性の塊が! なんなら宇宙にまで行ける精密機材が、お前にあったとんでもねぇ緻密な性能が海のモクズ同然に… あっけねぇもんだった… ヒトってやつの変わり様は!」

「だもんで、もう俺ら、やめたのさ… しゃべくり合うのを。必要最低限なこと… おたがいに必要なこと以外はしゃべらない。明日、何時にイチゴ畑に集合だとか。確認すること以外に、言葉なんか必要ねえんだ」
「な、あんただって分かるだろ、ここにいて。静かだろ、海の底みたいに。この静かさ… 鳥の鳴き声以外、なんも聞こえねえ。それでいて、みんな、分かってんだ。あいつのこと、こいつのこと、みんな分かってんだ。俺らぁ、何をしなきゃいけねえか、ってことを」
「言わなくたって、ちゃんと分かってんだ」
 彼らを見ていると伝わってくる… 静かだ、とても。でも懐かしい…、…、…。