ナセバ氏ひとりごつ

 誰だって自己って監獄を持ってるんですよ… あの人はこうだ、あの人はああだ… 鉄格子から垣間見て、牢屋の中で身づくろい… 鍵あけて外に出て、町を闊歩して。人から見る自分と、自分から見る自分は違うもんです… あなたの気にする鼻の下のニキビだって気づかない! あなたはそのために死にたくなるほど悩んでいるのに。そんなもんですよ、そこにだけ注意してると、そこだけ大きく見えちまいます。全体の、あなたという全体の、たったの一部でしかありません。あなたという世界、ニキビで出来てるもんじゃありません…

 悩みなんてそんなもんですよ。取るに足りないものを、わざわざ取って足してるんです。あ、あなたは貿易会社の部長でしたね… 立場があると。まわりにつくられた立場が。責任が。それで苦しい、と。これは私の持つ監獄ではない、私の外が、私に持たした監獄なんだ、と。これは二重ロック、厳重な、堅牢なものですね!
 精神が、次に肉体が、そこに放り込まれたようなものですね。みんな誰でも、似たようなもんですよ。と言ってもあなたは聞かない… 自分が、自分だけが大変なんだと思っていらっしゃる! なんで自分だけこんな目に遭うんだと。

 ここはゲームの世界ですよ。一人一人、コントローラーを持って自分が主人公で進んで行きます。誰も、その画面から離れられません。寝ても覚めても、物語は続いて行きます。心層は、真相は、あなた自身がその物語をつくっているということです。機材はあてがわれました、生まれた時から! その身体、その性質、あなたにしかできない人生、あなたにしか感じられない感性を。
 あとは、引き合って、磁石ですね、時代、時間、まわりにいる人達、運命と呼ばれる、糸のようなもので絡み合って、あなたという磁場に引かれ、反し、離れ、くっつきを繰り返し。やがてみんな、ゲームオーバー、プチュンです。

 それまでの物語なのだと観念してみましょうか。それまでは、繋がれています。そこには、あなたをプチュンさせるものは何もありません。あり得ないんです、そんな、あなたを真っ暗にさせるものは! 暗い所ばかり見てりゃ、そりゃ真っ黒に見えますよ… でもあなたに組み込まれたデータ、内部に保存されたDNA – ROMは進もう進もうとします。前へ前へ! 真っ暗闇でも、前へ!

 あなたはその身体、その根性で(これがなかったら今までにもうとっくに終わってますよ)、好きなようにやって行かれるがよろしい。好きも嫌いも、これまたあなたに生来備わっているあなただけに書き込まれた完了データだ、好む/好まざるに関わらず! それにしたがって生きるこってす。
 なんだかんだ、そうやって来たんですよ、AさんもBさんも… Zさんまでもが!… 運命、物語、こっち側にいる自分でありながら、あっち側の主人公、自分ってやつを操作して。えい! ほりゃ! 画面に合わせて、身体もジャンプしそうになって… 物語、続いていくわけです。