鬱々と暮らしていたが、明日あさってと東京に行く用事もあって、久し振りに散髪したのだった。
「しばらくみえないから、変わられたのかねぇ、って話したりしてたのよ」
奥さんはカラオケのし過ぎで声帯を痛めたらしく、ご主人が今病院へ薬をもらいに行っているという。
「どんなのにしましょうかねぇ」ヘア・カタログを渡される。
「前みたいに、うんと短くしてもらえば…」
「あ、じゃ、帰ってくれば、うちのが分かるわねぇ」
たぶんあまり髪を切った経験のない奥さんが、時間つぶしに切ってくれる。
「ノドには、何がいいんでしょうね、カリンとか」
「ああ、夜中にせきこんだ時に、カリン酒飲むと、その時は落ち着くんだけどねぇ。医者はね、とにかく喋らないように、って言うんだけど、喋らないようにって言われてもねぇ(笑)」
「ああ、あんまり喋らないようにしないと(笑)」
とか言いながらも、喋って、そのうちご主人が帰宅。
久し振りのお得意さん(ぼく)、久し振りに見るご主人、なんとなく嬉しい感じで、いろいろ話す。
「連休、休みかね、今日は」
「いやぁ、仕事、去年の12月に辞めたんで…」
「ああ、そうかね。骨休み中かね」
「そうですね、かなり長いですけど…」
「今、難しいね、こういう社会だからねぇ」
「うーん。あんまり、働く気が、しないんスよね」
「わははは、そりゃイカンね」
政治の話。
「こんなに、人…政治もそうですけど、言葉が信じられないって、悲しいですよね、政治家の言ってることなんか、どうせタテマエ、全然信用されないとか」
「そうそう」
「なんでこんなになっちゃったんでしょうね」
「うーん、記憶にございません、あたりからじゃないかなぁ。それで終わっちゃう、追求もしないで」
「ああ、終わらすことができちゃった…」
「そうそう」
「ああ、ぼくの会社もそうでしたよ、タテマエばかりというか、どうせ信用できないというか。辞めた人間が偉そうなこと言えないですけど」
「ああ、そうかね」
話の弾みに、ぼくの親が高齢であることを言えば、「結婚が遅かったの?」と奥さん。
「いえ、ぼくがつくられるのが、遅かったです」と答えたら、奥さんもご主人も大爆笑した。
「まぁ、弱い者イジメばっかりで、こんな制度イカン、って怒るんだけど、なかなか変わらん、何も変わらんくなっちゃってるもんなぁ。」
こんな社会、と言いながら、こんな社会の中で、我々は生きている。
ああ、サッパリしたねぇ、と奥さんがぼくの髪を見て言う。ほんとにサッパリした。
「政治家たちは、甘い汁ばかり吸っているから」と主人。
「これからもその汁を吸おうとする人たちがいるから、変わってしまったら、変えられたら、困るんでしょうね」
「そうそう。ずっと、そういう流れで来とるから」
主人は上機嫌そう、ぼくも短髪になって上機嫌、ありがとうございました、と言い合って店を出た。
政治、社会…ここまで来たら、もう壊す、壊れるしかないんじゃないか。
しかし、どうすればいいのだろう? 自分の生活も含めて。