「パチンコ屋には、人生に失敗した落伍者が寄り集まる」
そんな先入観も、僕を大きく励ました。
けっして、軽い気持ちでやっていたわけではない。
だいじなお金を投じているのだ。真剣にならざるを得なかった。
現実逃避をしていることも自覚していた。
そしてその現実から、逃げられるわけもないことも。
1万、2万と失くして行くにつれ、身体の表面は冷たいが、内側が火照り始めた。
妙な汗とともに、(何とかしなくちゃ)の一心に全身が覆われていく。
「とんでもないことをしている」と思った。
「何ムキになってんだ…」
私の後ろを、サラリーマン風の男が聞こえよがしに、そう言って歩いて行った。
僕の台は、当たらなかった。当たっても、すぐに終わった。
(こんなはずじゃ…)動揺した気持ちが、(このままじゃヤバイ)危機感になり、(このままではやめれない)切迫感に変わっていく。
こんなことをしてる場合じゃない。本気でそう思った。しかし、台から離れられない。
打ち続ける限り、当たるかもしれないではないか。
現に、さっき座ったばかりの人が、あんなに箱を積んでいるではないか。
結局、3万が失くなって、帰りの電車賃が貴重な小銭になった。
この場所の怖さを知った、初めての夜だった。
だが、不気味で不思議な、嬉しい気分も確かに残った。
この世に居場所がないと思っていた自分が、ここでなら1日中、堂々と座っていることができたのだ。
まわりの人達も、各々の台に向き合い、誰も私に構わない。
この知らない他人の1人1人に、僕は自分を見ているような気になった。
自分は独りではない… こんな、同じような人たちがいる。
言葉を交わさなくても、同じ仲間であるような、奇妙な意識が僕に芽生えた。
また、この大切なお金を、こんなことに使ってしまう自分に、満足感も覚えた。
「生命の次に大事なお金」
「働かないで、どうやって生きて行くの?」
したり顔で、当然のようにそう言ってくる大人達── 社会のようなものに対し、僕は、「そうじゃないだろう、カネなんて、たいしたもんじゃないだろう」と言いたい自分が、体現できた気にもなった。
だが、実情は、ただ快感を、当たった時の快感を、身体が求めていたに過ぎないとも思う。
〈獲物を捕らえた狩猟者は、そこで得た快感に捕われてしまう〉
私は、すでに捕われていた。