「わたしを無視しないで」と、きみが言う。
「わたしは、あなたの中にいるのに。どうしてわたしを無視するの」と。
「見て見ぬふりをされるほど、つらいものはないんだよ。わたしは悪女だけど、わたしがいなければ、あなたは善男にもなれないんだよ」
「善い、悪いと、どうして差別するの？ くだらない道徳の物差しで。わたしは、あなた方の中に、ずっとあるものなのに。あなたは、愛ばかりを尊重する。わたしを、あなたは置いてけぼりにする。あなたの中にあり続けるものに、フタをする… 見まいとする」
きみが言う、「わたしは、憎しみになる。あなたの忌み嫌う、憎しみに。、頭ごなしに叩かれて、わたしは成長する機会を失ってしまう」
「あなたは、一方的に愛だけを育てようとした。一方的な、借りものの価値観を袋にして、わたしにかぶせ、窒息させようとした」
「このように育てられた子が、どんな成長を遂げるか知っている？ かたわの不具者よ。閉じ込められたわたしを、あなたが認めないかぎり、あなたの愛は薄っぺらい、片手落ちの愛にしかならない」
「わたしを見て。そして抱きしめて。その手で大きく！ でないと、あなたはみじめな愛しか持ち得ない」
「あなたに、すでに備わっていたわたしという種子を、あなたはずっと嫌ってきた。見て見ぬふりばかりして、善悪という借りものの価値観で、その足で憎々しげに踏み続けてきたのよ。わたしは、あなたの一部であるのに！」
「わたしを手なづけられないから、安易な愛に、あなたは走ってばかりいるんだわ。空虚な、まぼろしの世界を歩いているようなものよ。わたしを見つめて！ わたしはあなたの同伴者なのよ…」
「そうすれば、あなたの大好きな愛も、きっと、もっと成長できる。わたしは、あなたの味方よ。敵じゃない。だってあなたの中に、ずっといたのだから」
きみが言う、きみが言う。
うつむきながら、眼を伏せ、泣かんばかりの震える声で。