人間世篇(四)

 さて、孔子は言葉をあらためて言った。

「とはいうものの、お前が行こうとするからには、きっとそれだけの根拠があるからだろう。一度それを話してみたらどうかね」

 すると、顔回は答えた。

「けじめを正しくして、心に雑念を入れず、つとめて純一でありたいと思います。これでは、いかがでしょうか」

「ああ、それはだめだよ。そんなに剛気一点張りなことを、心が充実している証拠だと錯覚すれば、意気ばかりが盛んで、感情の動きも激しくなるばかりだ。

 そんなものに向かっては、ふつうの人間は反対もできない。

 それにつけ込んで他人の感情を押さえつけ、自分の心の思うがままにしようとする。

 このような行為のことを、『日ごとに少しずつの徳を完成することもできない』という。

 まして大きな徳など、思いもよらないことだ。

 そんな調子では、相手は自分の立場を堅く守り、お前の教化を受けようとはしないだろう。

 たとえ、外面は調子を合わせたとしても、内心では何を考えているか、わかったものではない。だから、それはむりだよ」

 ── 顔回の心づもりを、孔子はあっさり否定している。

 しばらく、この問答が続く。