ガタンゴトンと、単調なリズムに揺られながら、うつらうつら、心地良く眠っていた。
いつ、その列車に乗っていたのか覚えていない。
ボックスシートの窓側で、外が暗く、たまに流れ星のような光が見えた。
他にも乗客がいたはずなのに、人の気配が全くしない。
確かめようにも、ひどく眠くて、目を開けたくない。
ぼくはずっと眠っていたいんだ。
いつまでも、いつまでも、この列車の箱の中で…
「終点ですよ」声がする。
うっすら眼を開けると、車掌が横に立っている。
「お客さん、降りて下さい。終点です。ここがあなたの降りる駅なんですよ」
ホームに出ると、真っ暗だ。何も見えない。
一体ここはどこなんだろう。
でも、懐かしい感じがする。前も、この駅で降りたような…。
光が見える、あそこが改札だな。光の射す方へ、ぼくは歩いて行く。
無人駅だ。改札を出ると、目の前に噴水のある広場が広がった。
薄暗い。何となく、イヤな予感がする。
期待と不安が入り交じった、こんな気分も、初めてでないような気がした。
突然、右の方から、血みどろの人間たちが現れた。
片眼のつぶれた者、頭の割れた者、裸の女、両腕を失くした、男か女か分からない者…
両足を失くし、這いつくばって進んでいる者の姿も見えた。
やっぱりだ。ここは地獄だ。ぼくは、何回も見たことがある。
知っていたのに、知っていたのに、またここで降りてしまった。
左からは、子ども達の群れだ。
みんな、青ざめた顔で、死んだように歩いている。
ああ、かわいそうに、なんでこんな所でさまよっていなければならないんだ?
何のために、みんな、生まれて来たんだ?
その時、ぼくの右肩が叩かれた。
振り向くと、さっきの車掌が立っている。
「右は、戦争で死んだ大人達。左は、いじめられて死んだ子ども達です」
分かってる、分かってるよ。
「あなたは、今までも、何度もここで降りました。ですが、彼らのような人間を出さない世界をつくろうとしたことがなかったですね」
うん、そうだ。ぼくはいつも、自分のことだけで精一杯だったからな。
「その時代時代で違うんですよ。受験戦争、企業戦士。学校のいじめや、国家間の戦争。形は違えど、いつもこの世は人間どうしの戦いに満ち溢れています。そんな世界にしないために、またあなたはここで降りなければならなかったんです」
いや、ムリだよ。ぼくひとりじゃ、世界なんか変えられやしないじゃないか。
「いえ、あなた、ひとりでも、変わればいいんですよ。そうすれば、世界も変わっていきます。あなた、ひとりが変われば、それだけで、あなたはもうこの駅で降りなくていいんですよ」
ぼくを、ぼくが変える? そんなこと、できるわけないじゃないか。
うつらうつらして、目を覚ますと、ぼくは列車に乗っていた。
ボックスシートの窓際で、他に客の気配がしない。
「終点ですよ」声がする。
「降りて下さい。ここがあなたの降りる駅なんですよ」