(e)ゆうべ

「もういいかい」
「まぁだだよ」
 わたしは遊んでいた。
 お山の向こうに、けむりが見えて、トンボが飛び交う、あぜ道で。
 夕暮れ時、お母さんの呼ぶ声がして、お友達と別れて家に帰る。
 
 お父さんも、お仕事から帰っていた。
 手を合わせて、みんなでご飯を食べる。
「いのちを、いただくんだよ」
 お母さんが言った。

 布団を敷いて、川の字になって寝ていたら、夜明け前に目が覚めた。

 座敷の上に、ねんねこを着たふたりの童子がちょこんと座って、
「元気でね。身体を、だいじにしてね」
 そう言って、わたしにバイバイしている。

 杖をついたお爺さんが、微笑みながら童子たちを手招きしているのが見えた。

 杖の下には、妙な動物がひしゃげていた。
 耳が尖って、尻尾の先が矢印になっていて、何か苦しそうに喋っていたけれど、よく聞こえなかった。

 外が明るくなって、台所から、トントンいう音と、お味噌汁の匂いが、部屋に入ってきた。

 わたしはお布団の中で、ぬくぬくしながら考えた。
 早く大きくなりたいな。
 お友達、たくさんつくって、みんなでいっぱい、遊ぶんだ──