椎名麟三の「永遠なる序章」は中学あたりで読んだと思うのだが、大学あたりでもまた読み返したような気がする、そして今回、また読んだというわけだ。
安太(あんた)という主人公、銀次郎という働いていない医者、登美子というその医者の妹、「おかね」という、安太の下宿先の下の階に住む老婆(といっても40歳くらいなのだが、まるで妖怪のように描写されている)、この4人が、基本的な登場人物である。
もう1人、山本というアナーキストが出てくるが、この人の「新しき人」的描写よりも、私は「おかね」の存在、そして安太と「おかね」の関係が好きである。
「おかね」と安太は15歳くらいトシは離れているが、その存在の根源的なところで、もはや離れられない存在どうしなのである。妖怪のような「おかね」と、安太はセックスもする、そして「おかね」は、「わたしは、騙されてるんじゃないか思うんだよ」と安太に言う。
また、「分かったよ、わたしらは、もう、離れられない、(互いの存在自体に、それはもう致命的運命的にそうなっているという意味で)そのことが、分かったよ」というみたいに、「おかね」は言う。
安太は、「そうだよ、おばさん」と言いながら、「おかね」が、また「騙されてるんじゃないか」という疑念を持つこと、そうなるだろうことも、分かっている。
だが、結局、そういう関係というものは、あるのである。どういうふうにあがいても、ひとりっきりになっても、ひとりっきりになった時、「そこにいる人」が、いるのである。
私には、そういう関係が、ほんとうの関係のように思える。何も、選んだわけではない、打算を計らったわけでもない、ただ、自分がポツンとそこにいるひとりの時、おんなじように、どうしようもなく「ある」人。
安太は死んで、銀次郎も死んで、登美子はなんとか生きていくだろうという匂いで終わり、「おかね」はおそらく悲しみに打ちひしがれるだろう。山本が、ただ「新しい人」だが、それはそれである。
「おかね」と安太の関係が、心に残っている。