いいかね、よくお聞き、
お前さんは、いないのだよ。
「無い」といっていい。
身体が生きているだけなのだよ。
お前さんは、別のところにいるのだ。
お前さんが、お前さんだとする、
自分ってやつは、
ヤドカリみたいにこの身体に宿っているだけなのだ。
ここに在る、居るのは、借りの姿なのだ。
貝殻を借りて、そこでもぞもぞ足を動かし、蠢いているだけなんだよ。
お前さんは、いつも流れているのだ。
水、とも言える。水には形がない。
入った容器、川のヘリ、コップ、お茶碗、
それらに入った時、はじめて形になる。
そこに入るまでは、形もないし、姿もない。
それが生命の実体なのだ。
だからお前さん自身は、「無い」のだよ。
じつは、どこにも、無いのだよ。
だからお前さんは、今まで生きてこれたのだ。
無いから、いろんな形になれて、やってこれたのだよ。
それなのに、何を憂いているのかね。