電話

 昨夜、珍しく電話が鳴った。出れば、十年以上前に世話になった職場の上司、Yさん。
 ぼくが辞めた後も、忘れる頃に何となく連絡を取り合っていた。仕事の接点がなくても付き合える、貴重な存在。
「元気ですか」とYさん。「生かされてます」とぼく。大笑いされた。

 飲み会の誘いだった。
「いや、今行っても知らない人ばっかりでしょ…」
「いや、あの頃が一番楽しかった、って話になってな。みのさんも呼ぼうっちゅう話になって、来るのはあの頃のメンバーだけやねん。F、S、K…」
「あ、そうなんだ。いやあ、ありがたい、嬉しいですね」
「来られます?」
「うーん!」

 外は寒い。お酒も全然飲まなくなった。もう若くない。飲み会に行ったら飲むことになる。頻尿気味だし、トイレばかり行くことになりそう…
 外は寒いことは抜かして、このような正直な現状を言った。
「頻尿?」Yさん、大笑い。「うん、頻尿。」ぼくも笑う。
「夜中とかしょっちゅう行ってるんですか」
「いや、水分をそんな摂らなければ大丈夫なんだけど」
「まぁでも飲み会いうたら飲むことになりますね」
「うん… やめときます、ありがとう」

 てな具合で断った。
 Yさんは二、三回家にも遊びに来ている。
「またみのさんち行きますわ」
「うん、家ならトイレも近いし」
「誰か会いたい人います?」とも訊かれたか。
「うーん、Yさん以外特にいないなぁ」また大笑いされる。正直は罪なりや?

 実際のところ、Yさんには泣かされたことがある。
 もうこの仕事辞めようかな、という時、通勤バスで一緒になって、「辞めないで下さいよ、みのさんは縁の下の力持ちじゃないですか。人の見ていない所で、昨日も掃除してたじゃないですか」
 えっ。見てたの?
 見てますよ、ぼくは。
 … そしたら、なんだか泣けてきたのだ。

 何とも情熱的な人で、いつも遅刻してくる従業員には、仕事時間中なのに作業をさせず、休憩所で滔々と説教ではないが教え諭すように対座していたのを見たことがある。
 とにかく飲み会はやめといたが、また会って、大笑いしたい。