ドストエフスキー、3作。
その「罪と罰」、やはりマルメラードフが忘れられない。
呑んだくれの、どうしようもない男で、上巻の前半にチョコッとだけ登場した人物である。
「呑んじまったんだね!呑んじまったんだね!」
と、奥さんに髪の毛を引っ張られ、もんどりうちながら幸せそうに笑い、引きずられていく。
そしてマルメラードフは、急に馬車に轢かれて死んでしまうのだ。
死ぬとき、ラスコーリニコフもそこにいた。
長い小説だし、ソーニャという象徴的な女性もいるけれど、ぼくにいちばん重く残るのが、どうしてもマルメラードフなのだ。
10代で一度読んで、30代でもう一度読んだ。
でも、やっぱり残ったのは、マルメラードフだった。
「虐げられた人びと」では、老犬のアゾルカと、その飼い主の老人。やっぱり10代のとき読んだ印象、今も強く残っている。
長い小説の中で、それはほんの2、3ページで終わる描写だった。
老犬のアゾルカは、老人と入った喫茶店のような場所で死んでしまうのだ。
テーブルの下で、老人の足元に寝ていたはずのアゾルカが。
老人は、「アゾルカ! アゾルカ!」と叫ぶ。
そして、その光景を見た、そこに偶然居合わせた人々は、皆、感動していた、という場面である。
「賭博者」では、老婆が、
「もう、やめましょう」 という主人公の言葉を無視してルーレットを続け、賭けた所に偶然、玉が入った。
そして老婆が吐いた、「どうだえ!!!」。
ビックリマークは、3つ、ついていた。
起承転結なんか覚えていない。
ただ、マルメラードフ、アゾルカ、その老人、「どうだえ!!!」の老婆。
あの長い小説の、ほんの、まったく1部分にすぎない、
そこにこんなに何故とらわれているのか。とらえられているのか、わからない。