お師匠さんの遺言記(1)

 なかなか、生と死が同一であることを、理解しなかったようだね。
 この二足歩行をしてお洒落に気取る、気ぜわしい生命体は!
 
 生死、たしかに同一ではあるが、この世には時間がある。この二足歩行の、髪の手入れに余念のない生命体が自らつくったもので、本来時間なんか存在しないのだ。本来というのは、ごちゃごちゃ詭弁を弄し、役に立たない思考をもてあそぶ以前の世界、ヒト族が、まだ功名心や自慢話をもって他人と対さなかった頃の話だ。
 シンプルだったよ! そのくせ、想像力、直感力は研ぎ澄まされていた! 差別も優劣もつけず、心が自然、助け合うように働いていた。心はそう働く機能だった。生存するために、自分達が生存するためには、そうしなきゃならないことを本能的に知っていたね。
 無駄な殺し合いなんてしなかったよ。その代わり、冷淡な、淡白な面もあった。これは助からない生命だ── 病気なんかで── と分かったら、もう放っといた。むりに治そうとしなかった。
 生命に、自分の欲を反映させなかった。生命は生命、残された自分達は自分達、と、悲しみながらしっかり一線を引いていた。心を込めて、弔ったものだ。
 ひとりでは何もできないことを知っていたし、一緒に生きる、助け合って、それが当たり前にできていた。そうしなきゃ、という義務でなく、仕事でもなく、そうしないと生きていけないことが当然だったんだ。
 祈りは当時からあったよ。祈祷師もいた。祈らなければ、心が済まなかった。みんな一緒になって、火のまわりを回ったものだ… ひとつになって。心しか、ひとつになれるものがなかった…