介護の仕事の頃(10)愛とプライド

「自尊心とは何ですか?」
 ── 多くの人が、他者と比べて、自分を優位と思い、それをプライドに繋げています。しかしそれは、真のものではない。
 天秤で計って成り立つ自尊心ほど、脆く、惰弱なものはありません。
 真の自尊心とは、誰かとの比較の上に立たないものです。それぞれが、それぞれの自己であるのです。
 自分は自分であると観じない者に、どうして他者が他者であると観じることができましょう。

 自分を尊ばない者に、他人を尊ぶことはできません。まず、あなた自身の心を見つめなさい。あなたの身体を見つめなさい。
 誰かと比べる前から、あなたはあなたとしてあったのです。そのあなた自身の生命を尊びなさい。よく観じれば、あなた自身を慈しむ心が、おのずと生まれてくるでしょう。
 そのあとで、その心をまわりに向けなさい。

 自尊心は、この世で唯一のあなたが、この世で唯一のあなたに向けて成るものです。
 ほかのひとを、いちいち比べて、プライドをつくるために引っ張ってくるのはおやめなさい。

「愛とは何ですか?」
 ── 許すことです。自分を正しいと思うことをやめることです。物事の善悪は、われわれの判断を越えたところにあります。
 人間のできることは、身近にいる人、すぐそばにいる最も近しい人を、苦しめず、苦しませず、その人が困っているなら助けようとすることです。

 しかし、その人のことをあなたが嫌っていたのなら、あなたは助けようとしないでしょう。あなたは薄情な、無愛の人になります。自分の好き嫌いで、変わってしまう愛は、偽愛です。

 なぜあなたはその人を嫌いなのか。なぜあの人を好きなのか。その人は悪い、あの人は善いと、あなたにとっての基準から、あなたは人を観じています。そう観てしまう自分を、許してあげなさい。自分を愛してあげなさい。その愛を、まわりに返してゆきなさい。

 正も不正も、善も悪も、二元論を越えることはありません。世界はもっと微妙で、繊細で、こまやかな糸が繋がり合ってできています。それらの中でしか、われわれは生きることができません。
 そして許すも許さないも無い、自分が正しいとか相手が間違っているとか、そのようなところでない境地へ、あなた自身が自己を導くことが、この世における最上の愛と言えるでしょう。