この世に僕が生まれてきたのは、この世に生まれてくる時と巡り合ったから、生まれてきたのだ。
僕はずっとそう信じている。
だから、「あなたに逢えてほんとうによかった」と言う彼女に、僕はこう言った。
「僕と逢ったのではない。君は、僕と出逢う時と巡り合っただけだよ」
結婚した時も、子どもができた時も、就職した時も失業した時も、僕はそう考えてきた。
「あなたは、つまらない」
彼女が別れ話を突きつけてきた時も、僕は、別れる時に巡り合ったんだと考えた。
そう、僕は時間に生かされているのだ。
僕だけじゃない。みんな、そうなのだ。
でも、誰もそれを口にしない。
無責任だとか、冷たい奴だとかいう。
僕は、ただ真実を言っているのに。
「余命3ヵ月ですね」医師がそう宣告した時も、僕は「そうですか」と答えた。
病名も、なぜ死ぬのかも知らない。
「ああ、死ぬ時がきたんだな」そう思っただけだった。