ここじゃない、これじゃない。
ぼくらは、自分にふさわしい住居を探す。
場所ではない。
それが、自分自身であるところのもの。
みんな、自分にふさわしい住居を見つけて、みんな仲良く、笑顔で暮らせたら…
それが一番なんだけど。
みんな、自分の住処が気に入って、まわりのみんなもそれを気に入って、みんながみんなを気に入って、楽しくやれば、それが一番なんだけど。
素晴らしい理想郷ができあがるんだけど…
でも、ぼくらは成長する。
成長したら、どんなに気に入った住処でも、それを捨てて探しに行かなければならない。
それぞれのサイズに合った、素晴らしい住居を探しに。
そんな住居が、この世にあるのか分からない。
だってぼくらは成長してしまうから。
どうせ、大きくなったら、変わってしまう。
そこに、止まり続けるわけにはいかないんだ。
どんなに素晴らしい住処を手に入れても… ぼくらはそれを捨てなきゃならない。
だから、大きくなるのが、とても怖い。
でも、大きくなってしまうんだ。
一生、ぼくらに安住はない気がする。
あっても、その時はすぐ過ぎてしまう。
それでも、ぼくら、生き続ける。
どういうわけか、そうなっている。
住処に満足している時、生が終わればいいのかもしれないけれど、満足している時はそんな気になれない。
そして満足を知ったから、満足の時が去っても、それを求めてしまう。
考えてみれば、自分から、わざわざ苦労しているようなものだと思う。
でも、満たされないのは、ぼくらのせいじゃない。
ぼくらが、大きくなってしまうせいなんだ。
この身が、満たされすぎてしまうんだ。
一生、自分の住処を見つけられず、困っている者もいる。
比べてしまえば、まだ、見つかった者の方が、幸せなのかもしれない。
どっちがいいのか、分からない。
幸せを知らない方が、幸せなような気がする。
幸せを知ってしまうから、不幸を知ってしまう気がする──
いずれにしても、ぼくらは、ひとりひとりの運命にしか生きられない。
ぼくが今、ちょうどいい住居にいるのも、偶然だし。
ぼくらは、いつも仮の宿に住んでいる。
ぼくらにとって、この世は、いつも仮の宿。
分かるのは、今、ここにいること。
ここにいること、それだけで、もう、いっぱいいっぱい。
この身が満たされていく!
探さないではいられない。
で、今日も、ぼくらは浜辺をてくてく歩く。
波が打ち寄せる。
空になった貝殻が、運ばれてくる。
ここじゃない、これじゃない…
ぼくらは、出たり入ったりして、選別を始める。
ところで、この貝殻の、前の所有者は、どこへ行ったんだろう?
素敵な模様で、とっても綺麗な、新築同様なのに。
こんな素晴らしい住処を捨てるなんて、贅沢な話だよ。