(5)仮住まい

 ここじゃない、これじゃない。
 ぼくらは、自分にふさわしい住居を探す。

 場所ではない。
 それが、自分自身であるところのもの。

 みんな、自分にふさわしい住居を見つけて、みんな仲良く、笑顔で暮らせたら…
 それが一番なんだけど。

 みんな、自分の住処が気に入って、まわりのみんなもそれを気に入って、みんながみんなを気に入って、楽しくやれば、それが一番なんだけど。

 素晴らしい理想郷ユートピアができあがるんだけど…

 でも、ぼくらは成長する。
 成長したら、どんなに気に入った住処でも、それを捨てて探しに行かなければならない。

 それぞれのサイズに合った、素晴らしい住居を探しに。

 そんな住居が、この世にあるのか分からない。
 だってぼくらは成長してしまうから。

 どうせ、大きくなったら、変わってしまう。
 そこに、止まり続けるわけにはいかないんだ。

 どんなに素晴らしい住処を手に入れても… ぼくらはそれを捨てなきゃならない。
 だから、大きくなるのが、とても怖い。
 でも、大きくなってしまうんだ。

 一生、ぼくらに安住はない気がする。
 あっても、その時はすぐ過ぎてしまう。

 それでも、ぼくら、生き続ける。
 どういうわけか、そうなっている。

 住処に満足している時、生が終わればいいのかもしれないけれど、満足している時はそんな気になれない。

 そして満足を知ったから、満足の時が去っても、それを求めてしまう。

 考えてみれば、自分から、わざわざ苦労しているようなものだと思う。

 でも、満たされないのは、ぼくらのせいじゃない。
 ぼくらが、大きくなってしまうせいなんだ。

 この身が、満たされすぎてしまうんだ。

 一生、自分の住処を見つけられず、困っている者もいる。
 比べてしまえば、まだ、見つかった者の方が、幸せなのかもしれない。

 どっちがいいのか、分からない。
 幸せを知らない方が、幸せなような気がする。

 幸せを知ってしまうから、不幸を知ってしまう気がする──
 いずれにしても、ぼくらは、ひとりひとりの運命にしか生きられない。

 ぼくが今、ちょうどいい住居にいるのも、偶然だし。

 ぼくらは、いつも仮の宿に住んでいる。
 ぼくらにとって、この世は、いつも仮の宿。

 分かるのは、今、ここにいること。
 ここにいること、それだけで、もう、いっぱいいっぱい。

 この身が満たされていく!
 探さないではいられない。
 で、今日も、ぼくらは浜辺をてくてく歩く。

 波が打ち寄せる。
 空になった貝殻が、運ばれてくる。

 ここじゃない、これじゃない…
 ぼくらは、出たり入ったりして、選別を始める。

 ところで、この貝殻の、前の所有者は、どこへ行ったんだろう?
 素敵な模様で、とっても綺麗な、新築同様なのに。

 こんな素晴らしい住処を捨てるなんて、贅沢な話だよ。