(4)待つ木

 わたしは、火を待っている。
 燃え上がる炎、肌を焦がす熱気。
 熱い、熱い炎の到来を待っている。

 ここは、自然発火機能をもつ地であることを、わたしの生命が知っている。

 生命が、常にこの世とあの世を循環するうちに、その事実がわたしの身体に埋め込まれた。

 これは、わたしの意思でこうなったわけではない。
 わたしが何を考えようと、何をしようと、自分がこうなる運命だったこと。

 生まれた時から知っていたよ。

 のろく、緩慢な動きをする鼠色のぬいぐるみが、背中に子どもを乗せて、わたしの上を歩いていく。

 お腹のポケットから顔を出し、きょとんとした顔の子どもが、大きな母親と一緒に飛び跳ねていく。

 森は、とても平和だ。
 のんびりして、空だけが大きく見える。
 太陽も元気だ。

 雲が流れる。
 心地良い風。
 ああ、平和、平和。
 もし天国があるとしたら、今、ここにじゃないかしら。
 
 ここは言葉のない国。
 みんな、それぞれの生命を、落として、育って、消えて、生まれを繰り返す国。

 誰も、誰も怨まず、憎まず、それぞれの運命を済ませている。
 食べられても、後悔しない。

 しばらく、水を飲んでいない。
 森全体が、乾き切っている。

 来る。
 もうすぐ、来る。

 わたしには、わかる。
 ほら、ポッ、と、灯が。

 徐々に徐々に、赤い炎が広がっていく。

 のろまなものも、飛び跳ねるものも、翼をもつものも、逃げまどっている。

 わたしは動けない。
 炎の舌が、こちらに伸びてくる。
 舌なめずりして、やって来る。

 すべてを焼き尽くす炎。
 おまえは森の王者だ。太陽だ。
 まわりの、わたしの仲間、敵でもあったものが、ぱちぱち、ぱちぱち燃えていく。

 さあ、わたしの子どもたち、今だよ。
 はじけて、飛んで行け。
 さようなら、わたしの子どもたち。

 ── 何日も、火は燃え盛った。
 そして徐々に徐々に、黒い灰が、影のようにその後を追って、広がった。

 森であったところは、真っ黒な大地になった。

 鎮火して2、3日後、子どもたちは、殻を破って四方に散らばった。

 敵も味方もいない、平坦な地。
 空から、陽光がさんさんと降り注いでいる。

 さえぎるものは何もない。
 子どもたちは一身に陽光を浴びた。

 この植物は、東洋の島国では「ブラシノキ」と呼ばれている。
 ブラシのような花をつけるので。

 中心に、一本の芯があり、そこから数々の花弁が、外へ外へと広がっている。

 どうしてこんな形の花をつけるのか。
 まわりの木々たちに、教えるためだった。

 まわりのみんなが、
「どうしておまえは山火事の後も、平気で生きていられるんだい?」
 と訊いてくるので。

「こうしてだよ、ほら、火にあたって、くすぶられたあと、この実を破って、こんなふうに散らばるからだよ」

 身をもって教えているのに、誰もわたしを見ようとしない。

 みんな、自分のことで忙しい。