火が煙草に言う、「お前は、私なしでは使い物にならないな」
煙草が答えて、「君は、僕なしでは煙りになることもできないね」
燃え尽きた火が言う、「私は何のために燃えていたのだろう」
尽きた煙草も灰になった。
ふたりとも死んでしまったが、その後、あの世に遊んだ。
「やあ、ここは何もないね」
「ほんとに何もない。これが、無、っていうんだね。ところで、無であるのに、どうして僕らはいるんだろう。無であるところに、僕らがいるなんておかしいじゃないか」
「無と同化していないんだね。あの世では有ばかりだったから、まだ私ら、有の幻影を見ているのかもしれない」
「そうか、こっちではあっちがあの世なんだな。ほんとうに何もない…」
「でもどうして私ら、ここで話をしているんだろう」
「ここで会ったからだろう」
「どうして会ったんだろう」
「あっちの世界で、会っていたからじゃないか」
「そういえば、懐かしいな」
「ああ。初めて会ったとは思えない」
「君と、ひとつになりたいな」
「ああ、なりたいね」
「どうしたらなれるだろう」
「いや、待て。もうなってるんじゃないか。だって、ここには何もない。何もないところに、僕らしかいないってことは、僕らしかいないってことじゃないか」
「でも君と私は別々の存在だよ」
「君と僕から見ればね。しかしこの何もない世界から見れば、僕らは異なった存在でない、1つの同じ集合体に見えるだろう」
「分からないな」
「君が分からないことを僕が知っている。ということは、僕が知らないことを君は知っているだろう。だから君と僕は1つなのだ」
「そうかそうか」
かれらは、再びあの世へ行った。
女と男に生まれ変わって、宿った身体を求め合った。
何年かつきあって、「違うんだなあ、俺達」男が言った。
「違うわねえ」女が言った。そしてふたり、別れてしまった。
同じであるから、違いがあるということ。
違いは、同じであることから生まれるということに、ふたり、気づきもしなかった。