「お前さん、死ぬのが恐いんだろ。
そらそうよ、今まで何回も痛い目に遭ってきたんだからなあ!
その記憶がなければ、何も考えず、とっとと死ねたのになあ!
要らんことばかり覚えてやがって、肝心なことを忘れちゃいねえかい?
なあ、なんで生きてんだ? 人間なんかになり下がっちまってよお。
よかったろう? あの頃の方が、よかったろう?
ムリすんなよ。さあ、楽になろうぜ。
痛いのなんて一瞬さ。
その後は、うふふふ、懊悩も煩悶もないパラダイス!」
また声がする。
「ねえ、宇宙も呼吸してるんだよ。きみの身体みたいに。
星も、ぐるぐる自転している。きみの命も、そうなんだよ。
回ってるんだよ。
きみは、宇宙という全体でありながら、星の1個でもある。
それがきみという存在なんだよ。
きみは、きみとしてと同時に、今ある形として生きていくんだよ。
いつだって、そうなんだ。どんな命でも、それは同じだよ」
ああ、ぼくは狂ってしまったんだ。こんな声が聞こえるなんて。
「世界って、何だと思う?」
「そうだよ、人間って何だと思っているの?」
世界だろ。人間だろ。
それ以外に、何がある。
ふたりの童子が、ぼくの耳元で飛び交いながら言う。
「それは、そう見えるだけ。つかめやしないよ」
「そうだよ。つかもうとすることができるだけ」
もういいよ。あっちへ行ってくれ。
「よくない。やっとこうして話すことができるんだ。またきみが死んでしまったら、いつ話せるか分からない」
ふたりの童子は、あどけない口調でぼくの耳に囁いた。
「あのね…」
「実は、もう、終わっているんだよ。決まっていたことなんだ」
え。何が?
「流れだよ。誰が決めたものでもない。
そうなっているんだ、ずっと。きみは自殺しなかった。
よく生きたよ。おめでとう。よく頑張りました。
でも、ここに来るちょっと前、あの車が左から急に出てきたからね。
覚えてる?
覚えてないか、ずっと、死のうとして、一生懸命だったからなぁ。
その心だけが、今残っているけれど、もうすぐ…」
ああ、あの時か。
ぼくは天に上がった。
また、落ちて、また、上がった。
水滴になって蒸気になって、行ったり来たりを繰り返した。
海の上にもコンクリートの上にも、叩きつけられるたびに、はじけて、また上がった。
数えきれない、たくさんの仲間たちと一緒に。
「あのね」
童子が、囁く。
「さっき、きみのいた青い星も消えたよ。あそこ、よくがんばってたんだけどね」