「おまえは、そんな殻を背負ってどこに行くんだい。
そんな気休めにもならない、薄っぺらな殻を背負って。
見よ、わたしは生のままだ。
そんなもの、身にまとうこともない。
気軽なものだよ。
この大地が、わたしの住処なのだ。
石、岩、物陰。その下にじっとしていて、夜な夜な花の蜜を吸いに行く。
そんな役立たずの殻など、捨てたほうがいいよ」
「ぼくはこの殻のあるおかげで、どこにでも出かけ、好きなところで眠ることができる。
葉の裏で、ああ疲れた、ここで寝ようと決めれば、この殻に入って眠る。
ぼくが自由にどこにでも行けるのは、この殻のおかげだよ。
容姿を比べて優劣をつけ、自分を優位に立たせようとなんか、しないほうがいいよ。
ぼくはぼくであることで満足している。
きみは塩に弱そうだし、人間に踏まれることもあるだろうから、気をつけて行きたまえよ」
おたがい、ツノを出し、かたつむりとなめくじはそう言い合って別れた。
それを見ていた地上の神は、殻のある者を愛らしく思い、ない者を憎らしげに眺めた。
天空の神は、愛憎をもって生者を差別する地上の神を、眉間にシワを寄せて眺めた。
大宇宙の神は、この逐一をただ眺めた。
地上の神である人間に、天空の神・自然が怒りの雷光をとどろかせた。
小さきものたちは、それを厭うでなく、快とも不快とも思わなかった。
ただ人間だけが、恐れ、困った。
小さきものたちは、言い合った。
「こうなると、もう殻も役に立たないな」
「ああ、岩も石も、みんな砕け散ってしまった」
大水が溢れ出し、あらゆるものが流された。
小さきものたちは言い合った、「人間たちが悲嘆にくれているね」
「ああ。2、300年後には、彼らも進化して、われわれみたいになれたらいいね」
「まったく。彼らはカン違いばかりしているからなあ」
10000年後、地上にマンモスが躍り出た。
100000年後、再び人間らしき生物が。
「やれやれ、もう自然破壊はまっぴらだ」
「そうそう。もう、破壊もできなくなった」
「本望だよ。よかった、よかった」
彼らは、ツノを出して語り合った。