(1)ツノをもつもの

「おまえは、そんな殻を背負ってどこに行くんだい。
 そんな気休めにもならない、薄っぺらな殻を背負って。

 見よ、わたしはのままだ。
 そんなもの、身にまとうこともない。
 気軽なものだよ。

 この大地が、わたしの住処なのだ。
 石、岩、物陰。その下にじっとしていて、夜な夜な花の蜜を吸いに行く。

 そんな役立たずの殻など、捨てたほうがいいよ」

「ぼくはこの殻のあるおかげで、どこにでも出かけ、好きなところで眠ることができる。
 葉の裏で、ああ疲れた、ここで寝ようと決めれば、この殻に入って眠る。

 ぼくが自由にどこにでも行けるのは、この殻のおかげだよ。
 容姿を比べて優劣をつけ、自分を優位に立たせようとなんか、しないほうがいいよ。

 ぼくはぼくであることで満足している。
 きみは塩に弱そうだし、人間に踏まれることもあるだろうから、気をつけて行きたまえよ」

 おたがい、ツノを出し、かたつむりとなめくじはそう言い合って別れた。

 それを見ていた地上の神は、殻のある者を愛らしく思い、ない者を憎らしげに眺めた。

 天空の神は、愛憎をもって生者を差別する地上の神を、眉間にシワを寄せて眺めた。

 大宇宙の神は、この逐一をただ眺めた。

 地上の神である人間に、天空の神・自然が怒りの雷光をとどろかせた。

 小さきものたちは、それを厭うでなく、快とも不快とも思わなかった。

 ただ人間だけが、恐れ、困った。

 小さきものたちは、言い合った。
「こうなると、もう殻も役に立たないな」
「ああ、岩も石も、みんな砕け散ってしまった」

 大水が溢れ出し、あらゆるものが流された。

 小さきものたちは言い合った、「人間たちが悲嘆にくれているね」

「ああ。2、300年後には、彼らも進化して、われわれみたいになれたらいいね」

「まったく。彼らはカン違いばかりしているからなあ」

 10000年後、地上にマンモスが躍り出た。
 100000年後、再び人間らしき生物が。

「やれやれ、もう自然破壊はまっぴらだ」
「そうそう。もう、破壊もできなくなった」
「本望だよ。よかった、よかった」

 彼らは、ツノを出して語り合った。