「ぼくは、人として大切な何かが欠落しているんだ」
そう言うと、「わたしも!」と彼女が言ったんだ。
で、欠落している者どうし、一緒に暮らし始めた。
一緒にいて、おたがい、楽だったからだと思う。
ああ、一緒にいて楽な人間! まして、異性!
これを知ったら、他の人間関係が、なんと苦しく思えただろう!
ぼくは、それまでいた友達から、進んで疎遠になって行った。
歳もとり、「若い頃」の友達とつきあうことは、あの眩い青春時代の終焉を痛感させられるし、また、醜くなった自分を鏡に映すようだったから。
そうしてぼくは、彼女との二人の生活に埋没していった。
彼女とぼくは似ていた── と思っていた。
ところが、一緒に生活するうちに、異種の存在であることが判明する。
ムリだ、と思った。あまりに違いすぎる。生活スタイル、ものの見方、感じ方、考え方が。
だが、もう、戻れない、ぼくらは、歳をとりすぎた。
ひとりじゃ、淋しい。
こんな消極的な理由、どうしようもない現実が、ぼくらを繋ぎとめる紐帯になっている!
セックスレスも続いている。彼女も少し哀れむように、「浮気してもいいわよ」と言う。
ねぇきみ、ぼくは思うよ、すべては幻想だったんだ、と。
幻想だったのに、ホントウのものを求めてしまったんだ、と。
ぼくらに欠落していたのは──
ねぇきみ、一体何だったんだろう?