「さて、そろそろ終わろうか」
「では、まとめようか。
── 真実・ホントウのことなんて、わかりゃしない。
仮定の話だ、ぜんぶ。
昔々の人間、人間に限らず、さまざまな生命は1つだったとしよう。
1つだったものがバラバラになって個我が生まれたとしよう。
すると、『記憶』も当然バラバラになるわけだ。
すると、文を書く、物を言う、人がそうする理由は、何かを伝えたい、つまり『わかってほしい』願望があるからだろう、と考えられる」
「言葉は、何か言いたいために発するんだろうからね。
で、きみは何をわかってほしくて、何を伝えたいのか? と訊きたいんだろう?
昔々は1つだったことを想い出せ、ってか?」
「承認願望だよ。突き詰めてみれば。
自分がここにいることを、まわりから認められたいのだよ。
きみがブログをするのも、そうだろう?」
「生きてるだけでいいのにね。
やることをやって、お金を稼いで、よく働き、よく食べ、よく眠り、それで全くいいのにねえ」
「なぜ、それだけで済まないんだろう。
何をわかってほしくて、書いたものを人に見せたり、人と何かしゃべくり合ったりしているんだろう。
わけのわからない自分の、何を認めてほしくて、こんなことを書いているんだろう」
「おい、キノコ。
ソクラテスが友達に言われていたぞ、
『お前、そんな考えてばかりいては、破滅してしまうぞ。節度を保って考えろ。節度を越えたら、破滅する。まず、生きる活動をしろ、そこから始めろ』と」
「でも、彼にとっては、考えることが生きる活動だったんだよな。
わかってほしいとか認められたいとかは、二の次だった」
「芯のある人だったんだろうね。
人間にとって正しいことは何かを、対話を通して探し続け、それにこだわり続けた。
自分だけのことで悩まず、人間にとってのこととして物事を全て捉えようとしていた」
「ということは、何も信じられなかったのかな。
信じられるものがないから、それを探していたのかな」
「とすると、なんか淋しい話だね」
「ひとりじゃ、みんな淋しいのかな。
で、人を求める…
とすると、恋愛も創作も、つまるところ同じ動機から始まっている、ということになる」
「そして絶望し、また希望を持ち… を繰り返し、時間が過ぎていく。
まるでシャンパンの泡だね、乾杯、乾杯!」
「仮に絶望したとしても、あまりそれに飲み込まれないようにしないとね。
希望にも、同じことがいえる。
その『時』でしかない。
総じて、人生はその一時一時の、うたかたの夢のようなお話だ」
「その夢のために、苦しんだり楽しんだりし続ける。
いいじゃないか。まったく、いいじゃないか♪」
「じゃ、そういうことで」