T自動車の頃(1)

 今週は2直なので、帰宅は3時半近くになってしまった。
(交替制勤務なので、先週は1直、6時30分~15時15分まで、今週は2直、16時15分~1時までが定時の勤務時間。)
 今日は45分の残業。

 品質重視の会社だが、それはカタチだけ、表向きだけではないか、と感じることがある。
「次工程はお客様」とか言いながら、「次工程は自分の立場」ではないか、と。
 これはあくまでも僕の所属する組のこと、と思いたい。

 僕の受け持つ工程は、「インマニ」である。
 これは、ガソリンが流れる部分であり、僕が不良品を作ったら、お客さんが乗った車に、火災が発生するのである。重要な工程である。

 で、僕は教えられた通り、手袋に異物が付かないように、いわゆる「コロコロ」(部屋の畳や床なんかの埃をコロコロしてくっつけるアレです)で入念に手袋をコロコロし、ガソリンの噴射口に、まかり間違っても異物が付かないように綺麗にする。

 だが、さて、しかし。
「原価削減」がテーマの、今日この頃の会社。
 1本750円位のコロコロが、150円位のコロコロに変わったのである。
 変わったのは、2、3ヶ月前である。
 見るからに、安っぽいなぁ、とは感じていた。

 いつものように手袋をコロコロして、部品を手に取り、付ける。
 ん!?
 何か、白いモノが付いてるぞ!!!

 さすが安物。コロコロのキリトリ線部分にあるダイヤ状のもの、2、3ミリのダイヤ状のものが、部品に付いちゃってるじゃないか ──!!!
 ライン外を呼び出す。(ライン外とは、僕のようなライン作業者の「外」にいる人で、何かトラブッた時に処置をする人です)
「原価削減で変わったから…」彼女は言った。
 それだけだった。

 つい1週間前、また僕は部品に付いた異物を発見。
 やはりあのコロコロさまのキリトリ線にあるヤツである。
 もう我慢の限界であった。
 この2、3ヶ月、このコロコロのためにそうとう注視を強いられて作業してきたのだ。
 ライン外を呼び出す。
「ねぇ、これさぁ、前も言ったんだけど、部品に付いちゃうよ。」

「前にも言った?」
 今度来たライン外は、一昨年入社した新人である。
「これ、Tさんに見せてよ。(Tさんとは、うちの組のボス)Tさんに、伝わってないと思う。クチじゃなくて、現物を見せたほうがいい。」
 現物を渡しながら、僕は言った。

「はい…」
 新人は、受け取る。
 だが、一向に新人はTさんに現物を見せようとするどころか、僕の後ろで作業する人間とバカ話をしてゲラゲラ笑っているのである。
 そうこうしているうちに休憩時間。
 休憩所に向かう前に、新人に聞いた。
「Tさんに見せたの?」
「いや、Tさんが知っているかどうか分からないから…」
 おい、知らせるのがお前の仕事だろう。

 僕はひそかにキレて、たまたま休憩所に向かう時、すれ違ったTさんに言った。
「Tさん、これこれしかじかのこと、伝わってます?」
 Tさんは「うん」とも「いや」とも言わず、ただ聞いていた。
 作業が始まると、Tさんが僕の持ち場にやって来て、「これか!」と僕の使うコロコロを確認。
 以前使っていた、高価なコロコロに変えてくれた。

 その2日後、安物のコロコロは、他の工程でも全面使用禁止となり、僕の意見がやっと通ってくれた。
「わたし、Fさんに言ったのに…」
 一番最初に、僕が呼び出して訴えたライン外の彼女が言った。
 Fさんとは、ライン外の職制、つまりライン作業の現場での責任者である。
 僕自身も、Fさんに言っていたのだ。このコロコロは、異物を取るどころか、異物を付ける!と。
 だが、何の処置も説明も受けぬまま、放置されたままであった。
 こんなことって、アリか?
 人命に関わる問題だぞ。

 しかし、この会社の名誉のために言っておくが、僕や、コロコロを使うような重要工程を任される作業者は、細心の注意を払って作業しています。
 99.9%、不良品は流していない、と断言できる。
 僕が言いたいのは、「なぜ何もしてくれなかったのか」ということです。
 そしてそのライン外の責任者は、次期グループリーダー候補なのだ…