「しかしこのサロンも、ブログでやっているわけだ。
この作者は一体何を考えて、こんなことをしているのだろう?」
「まったくだ。
作家になれるとでも思っているのだろうか。
それとも、ランキングの上位にいって、自己満足に浸りたいんだろうか。
よし本になった、何か形になりました、として、それでどうなるというんだろうか?」
「いまどき、作家一本で食っていけるはずもないし。
絶望だよ、ああ絶望」
「この作者も、昔は自費出版とか考えたことがあるそうだ。
もう潰れてしまった会社なのだけど、原稿を送ると編集者から電話が来て、出版費用に100万だったか、それを払えば本になる、と言われたそうだ。
著名な詩人の本も出版している会社で、広告もよく出していたはずで、でも倒産しちゃった。
感じのいい電話主だったけどね、チャンと読みました、というのが伝わってきたし」
「一寸先は闇だな。
でも良かったな、そんなお金を払わずに済んで」
「まったくだ。
親に相談すると、「出版するのに、こっちがそんなお金払うのはおかしいじゃないか」と、マットウな意見だった。
考えてみれば、そうなのだ。
ほんとにお金持ちの人が、自分史製作して、道楽のようにその本を撒き散らす、親戚とか友人にね、そんなイメージを持ったよ、自費出版。
そういう使い道だったらいいんじゃないかな」
「自分がこの世に存在した、という証しを残したい。そのために、自分史をつくる人とか、多そうだものね。
年金で悠々自適な生活をしている人とか、恰好なマトにされやすい。
あこぎな出版社は、ほんとに悪心を悪心と思わないからね」
「といって、良心的な出版社は経営に大変そうだ。
素敵な作家の全集をよく出してくれた会社も潰れてしまったし。
インターネットの影響は、ほんとうに大きいよ。
そのおかげで、こうして書けてるわけだが…。
やはり『軽く』なってしまうわな。
スマホもPCも、軽い。軽いよ」
「バランスが大事だよね、何にしても。
重いだけじゃ、ダメ。軽いだけでも、ダメ。
その『もの』の内容がね。
それを持つヒトの内容、とも言えるが。
でも、一昨日までのこのサロンの話によると、人間はもともとカラッポだったそうじゃないか。
その時代時代に合わせて、空虚な中身に、知識やら能力やらを、『生きるために』埋め込んだり埋め込まれたりして、時間とともに今に過ぎてきたんだろうね」
「しかし、ほんとに絶望的ではないか。
音楽だって、何でも無料で YouTubeで聴けてしまうし、ミュージシャンも音楽つくるだけでは食って行けなくなるんじゃないか?
お金っていうのは、ほんとに不思議なものだ。
本だって、お金を払って、しかもそれが高価であればあるほど、購入者は真剣に読もうとするのだ。
無料で読める、聞けるは、ありがたいけれど、「払う」という行為そのものに、何か価値がありそうだ。
村松友視という作家は、プロレス会場でレスラーがダメな試合をした時、客が『カネ返せ』コールをするのに反対した人だった。
『お金を払ったのは自分なのだから、どんなダメな試合だったとしても、その中でイイものを自分で見つけるべきだ』みたいな言い方でね」
「お金がチャンと払われることで、責任も生まれる。
ヘタなものは書けない、チャンとしたものを書こう、とするようになるかもしれない。
特にこのサロンの作者は貧乏らしいから、目の色を変えてとんでもないケッサクを書くかもしれないな。
… という夢を抱かせてくれるのも、ネットならでは、だろう。
とにかく世界中に発信されるわけだから、恥ずかしくないものを書いていきたいものだ。
もう十分、恥ずかしいが」
「ところで、何か商品として物を書こうとする時、『読者対象を明確にすること』が大切らしいよ。
出店する時や商品を開発する時、企業はマーケティング調査をし、この商品は売れるか? ターゲットはどの層にするか?
企画書をつくり、プレゼンをするね。
本も、同じなのさ。『文学』とかいったって、もはや学問じゃないよ。
娯楽さ。ナンプレ雑誌と何ら変わらない」
「でも、それは良いことなんじゃないか?
格式張ったガクモンなんかより、よほど身近に感じられるし。
… でも、やっぱり一長一短なんだろうね」
「もし、これからに何か希望があるとしたら…
結局『他力』になってしまうけれど、人の徳というものに、どうしても関わってくるだろうね。
自分のことだけで悩むのでなく、その自分の中に人間を取り入れて、人間についてのことで考えられるような人間が増えていかないと、バランスは崩れ、一方に偏り続けることになるだろう。
すでに現実的な環境そのものが、とっくに崩れているんだが」
「もう、やめようよ。
明るく行こうよ。過ぎたことは、しょうがないじゃないか。
何も考えないで行こうよ、笑ってさ。
人間は、もともと無だったんだろう?」
「………」