(7)希望と絶望、恋愛と創作について

「さて、そろそろ終わろうか」

「では、まとめようか。
 ── 真実・ホントウのことなんて、わかりゃしない。
 仮定の話だ、ぜんぶ。
 昔々の人間、人間に限らず、さまざまな生命は1つだったとしよう。
 1つだったものがバラバラになって個我が生まれたとしよう。
 すると、『記憶』も当然バラバラになるわけだ。
 すると、文を書く、物を言う、人がそうする理由は、何かを伝えたい、つまり『わかってほしい』願望があるからだろう、と考えられる」

「言葉は、何か言いたいために発するんだろうからね。
 で、きみは何をわかってほしくて、何を伝えたいのか? と訊きたいんだろう?
 昔々は1つだったことを想い出せ、ってか?」

承認願望だよ。突き詰めてみれば。
 自分がここにいることを、まわりから認められたいのだよ。
 きみがブログをするのも、そうだろう?」

「生きてるだけでいいのにね。
 やることをやって、お金を稼いで、よく働き、よく食べ、よく眠り、それで全くいいのにねえ」

「なぜ、それだけで済まないんだろう。
 何をわかってほしくて、書いたものを人に見せたり、人と何かしゃべくり合ったりしているんだろう。
 わけのわからない自分の、何を認めてほしくて、こんなことを書いているんだろう」

「おい、キノコ。
 ソクラテスが友達に言われていたぞ、
『お前、そんな考えてばかりいては、破滅してしまうぞ。節度を保って考えろ。節度を越えたら、破滅する。まず、生きる活動をしろ、そこから始めろ』と」

「でも、彼にとっては、考えることが生きる活動だったんだよな。
 わかってほしいとか認められたいとかは、二の次だった」

「芯のある人だったんだろうね。
 人間にとって正しいことは何かを、対話を通して探し続け、それにこだわり続けた。
 自分だけのことで悩まず、人間にとってのこととして物事を全て捉えようとしていた」

「ということは、何も信じられなかったのかな。
 信じられるものがないから、それを探していたのかな」

「とすると、なんか淋しい話だね」

「ひとりじゃ、みんな淋しいのかな。
 で、人を求める…
 とすると、恋愛も創作も、つまるところ同じ動機から始まっている、ということになる」

「そして絶望し、また希望を持ち… を繰り返し、時間が過ぎていく。
 まるでシャンパンの泡だね、乾杯、乾杯!」

「仮に絶望したとしても、あまりそれに飲み込まれないようにしないとね。
 希望にも、同じことがいえる。
 その『時』でしかない。
 総じて、人生はその一時一時の、うたかたの夢のようなお話だ」

「その夢のために、苦しんだり楽しんだりし続ける。
 いいじゃないか。まったく、いいじゃないか♪」

「じゃ、そういうことで」

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