私は火星である。かつては水を持ち、都市を持ち、栄えた文明を持っていた。
かつては生命を持っていた。今も、「私」という宇宙に浮かぶ、生命体ではある。
地球が見える。かれは病んだ魂だ。かつての私のように、かれは病み、荒んでいる。
かれの住人どもは、その大地に無関心だ。
かれらは天にも無関心だ。かれらは下を向き、参考書ばかり読んでいる。
おお、私の住人たちも、かつてはそうだった!
かつての私がそうであり、かつてのおまえがここにいるというのに
おまえはこちらを見向きもしない。
朝な夕なに、時計ばかりに目をやって
天を仰がない、地を抱こうとしない
「いかに楽をするか」それだけをからっぽの頭で満たし
足元に穴があいているのに気づかない
地球は生きているのに
かの地が動けば
この地にも波が押し寄せる
どんなに遠くの出来事でも
世界はつながっているというのに
自分の頭の中だけを考えて
霊妙で精緻な風の震動に無関心だ
微細ないのちの流れを忘れた頭は
脳みそだけの人造人間
おお、かつての私がそうだった
私はかれらに支配されていた!
おまえの未来は、かつての私
おまえの未来がすぐそこに見えているというのに
誰も私を見ようとしない
おまえの「やがて」と私の「かつて」が
今、ここにあるというのに
誰も私を見ようとしない