二人と一人

「わたしは悪人です… わたしは許しを乞いません。悔い改めもしません。」
 ── 女は、涙ながらに言った。
 神と悪魔は相談した。
「… どうする?」
「まぁ、あんたがいなけりゃ、俺もいないからなぁ。」

「おまえがいなければ、私だっていない。」
「俺は、こういう女、好きだなぁ。しっかり、自分を責めている。」
「私も好きだ。多くの人間は、自分を棚にあげて、他人事のように悪を責め立てるからな。」

「それにしても、なあ、戦争なんて、むごいことをしたもんだよな、つくづく、人間は! いまだに思い出すよ。悪魔の俺だって、できやしねぇ。」

「あの時は、国のために自殺し、多くの人を殺すのが、善だったからな。この国では、『 神風 』などといって、私の名さえ使われてしまったよ。」

「同情するよ。ところで、この女の罪状は、何なんだ?」
「浮気をしたのだ。夫と子もいるのに。」
「なんだ、旦那と子どもと愛人を愛してるってわけかい。」

「まったく、たいしたことないな。彼女の心に、まわりの人間が寄り添えば、なんてことのない話だぜ。」
 神と悪魔は、懐手して、それぞれのいるべき場所へ戻った。