好きの果て

 彼女は、アンティークなアクセサリーを見るのが好きだった。
 イオンモールや百貨店に行くにつけ、必ず立ち寄る小物売り場。

「どうしてそんなに好きなの?」
「だって、ちっちゃくて可愛いんだもん。それに、いつも身につけられるし」
「ああ。オレも可愛くなって、いつもKちゃんの身につけられたいなぁ」

「何言ってんだか」
「いや、ほんとほんと。いつも一緒にいたいよ」
 ぼくは、本気で彼女のことを愛していた。
「ねえ、Mちゃん、わたし最近ヘンなのよ」
「うん?」

「こないだ、ノラ猫、じっと見てたら、ネコ、動かなくなっちゃったの。目を逸らしたら、尻尾ふくらませて逃げてっちゃった」
「へえ」
「鳥もそうなのよ。わたしが見てると、もう動かないの。電線にとまったまま、時間も止まっちゃっうみたいになるの」
「ふうん」

 ぼくらはラブホテルに入った。親に内緒で、初めての一泊。
「そんな可愛い目で見つめられたら、吸い込まれそうにはなるよ、確かに」ぼくは言った。

 すると彼女は、「最近、そんな力が強くなってきてるの。わたし、怖い…」そう言って涙ぐんで、肩をぶるぶるふるわした。
「大丈夫だよ、Kちゃん、ぼくがついてる。ぼくが守ってあげる」

 彼女を抱きしめた。その時、彼女の目が、ぼくをじっと見つめてきた。
 不思議な気分だった。ぼくの魂が吸い取られていく。柔らかいものに包まれて、ひどく眩しい光が迫ってきて、ぼくの身体は硬直して、まったく動かなくなった。

 翌朝、気がつくと、隣りに彼女が横たわっていた。その彼女は、奈良の大仏みたいに大きく見えた。
「やっちゃった、やっちゃった」彼女が無邪気に笑って言った、「あなたはわたしのもの。ずっと、一緒…」

 ぼくは、彼女に言った、「嬉しいよ。嬉しいよ…」
「もうすぐ、その目も口も動かなくなるわ。まだできたて・・・・だから動くけど。わたし、ほんとにわがままなの。ごめんなさいね」

「いいよ、いいよ。ぼくは幸せだよ」ぼくは正直に言った。
 そしてぼくは、ぼくの足元に、2、3体の男の人形が転がっているのを見た。それがこの世で見た、最後のものだった。